オーソン・ウェルズ出てきてからが本番。「恐怖への旅」同様ジョゼフ・コットンが主役だとサスペンスのはずなのになぜか弛緩する。ダチに仕事斡旋してもらいにウィーン来たらちょうどダチが死んでしまいなんだか怪しいので首突っ込んでみた、という映画。
舞台がWW2後のウィーン。連合国軍の分割統治状態で混沌とした街のルールはさながら終戦直後の日本のようで、住人は他国(おまけに多国籍)の警察機関が信用できず生活のために手を汚すことに躊躇がない。あらゆる物資が不足しているなか粗悪な薬品を売りさばくビジネスが横行する。さらに他国と地続きになっているヨーロッパでは色んな人々が違法に亡命してきて生き延びていて、偽装パスポートが必要な人間はそこかしこにいる。
20年来の親友が不審死した謎を追ったら色んな人に妨害され、親友の化けの皮は剥がれていく。おまけに親友の恋人に惚れちゃって三角関係に発展。まぁー、大変な内容。なんだけど、なんかムードがずっと若干ゆるい気がするんだよな。それは間違いなく音楽によるところが大きい。内容は暗いのにサントラがずっと明るい。音楽はアントン・カラス。
モノクロサスペンス映画かくあるべしなコントラストの効いてて奥行方向の空間性を活かしたえっぐいショットが連発する。オーソン・ウェルズ初登場シーンは白眉。階段を見上げる・見下ろすカメラの幾何学的な画が美しい。荒廃した街は実際にウィーンで撮られたロケーションでとにかく圧倒される。終盤下水道を延々逃げ回るシーンが全部すごい。しかしこの作品は何と言ってもあの並木道を奥から歩いてくる長回しのラストショットにすべてが結実している。