くじら

ヨーロッパ一九五一年のくじらのレビュー・感想・評価

ヨーロッパ一九五一年(1952年製作の映画)
5.0
すごすぎた。

混乱する戦後に、息子の死を受けて「"今ココ"に注ぐ愛」を獲得した女の旅路。
狂気と正気は誰の物差しか。

悪いのは社会で、主義も宗教も頼れないとき、本来自分が持っている「愛の総量」を直視せざるを得ない。
そしてそれは自分の目の範囲に注ぐ分には無限であることも分かってしまい、それを無視してはもはや動けない。

全ての現象に対して、注げる愛を数えながら「ガチ」で見つめ、途中で愛の勘定を放り出し今できる全てを捧げる。

とにかく映画全編に渡って、彼女は何をどう見たかが説明なく映されており凄みがある。
序盤、物語が動き始めるまでの流れるようなカメラは何だ、すごすぎる。

主人公の眼光によって捉えたものの説得力がとても強いゆえ、彼女を描くライティングも併せて雄弁になっている。
旦那に何も言わずに外出した夜、家に戻って旦那に詰問された時のライティング。テンポをつけてライトが彼女を照らし、最後は全く顔も見えないほどの翳りの中に佇んだ。

啓示などなく、自らの醜さから愛に従事をするしかない時代の聖者。

彼女の「ねばならぬ」を追いかけるような情緒的なカットとともに私自身も駆け抜けた。

「真実が宣伝と誘惑に埋没する昨今だ。彼女は狂信者か?それとも伝道者か?」
くじら

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