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バイオレント・サタデーのヒトのレビュー・感想・評価

バイオレント・サタデー(1983年製作の映画)
4.0
ペキンパーの遺作『バイオレント・サタデー』、めちゃくちゃ面白かった。

晩年のペキンパーの悪癖がこれでもかと詰まっていて、無意味なシーンがやたら多かったり、シリアスな映画のはずが突然トーンがズレたギャグを始めたり、大駄作の『キラー・エリート』を思い出させるんだけど、むしろそれが「この映画つぎに何をしでかすかわからないぞ」という緊張感を生んでいる。

最初は硬派なスパイ映画だと思って固唾をのんで見ていたのに、ミッドポイントで大爆笑して(これギャグ映画だったのか)と納得したら、そこから急転直下のドンデン返しが始まるんだ。なんだこのアトラクションは。

そしてペキンパー本人も「なんかこれ変だぞ」と薄々察していたのか、申し訳程度のカーアクションがあるのだが、まさに腐っても鯛!見事なアクションでこれ1シーンで元が取れるくらいの出来だった。そしてその出来の良さが余計に作品トーンをチグハグにしている。まさしく怪作!

ストーリーは極めて強引と言わざるを得ないが、中盤のジョン・ハートが天気予報を始めるギャグで大爆笑してしまった身としてはもはやマジメにツッコむ気すら湧かないのである。そんな強引な演出方法があるかっ。

エロにアクションにギャグに風刺、すべての調味料を味見しないまま闇鍋に混ぜ込んだ本作は、すべての要素がバラバラに分離したまま、しかし偶然かはたまた奇跡か、その違和を含めて絶妙なバランスで一本の映画として成立しているのである。それはひょっとしたら巨匠の意地であったのかもしれない。
ペキンパーという規格外の巨匠に相応しい規格外の遺作である。
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