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ガンドレスのヒトのレビュー・感想・評価

ガンドレス(1999年製作の映画)
3.0
小説や漫画には「未完の傑作」というジャンルがある。作者が途中で逝去したり断筆するとそのようなものが生まれる。しかし、「未完の映画」というものは見たことがない。なぜなら、「未完成の映画」が劇場で公開されることはありえないからだ。しかし、そのありえないことが起きてしまった。それがガンドレスである。

もちろん劇場版で鑑賞。映像の多くの部分(比率でいうと全体の一割ほどか?)は着色が間に合ったおらず、キャラクターやロボットがベッタリとしたバケツ塗りで処理されている。そのため常時エヴァの深層心理シーンみたいな画面なっている。また、動画が作られていない原画だけのシーンもあって、まるで処理落ちしたゲーム画面みたいになっていた。静止画だらけのアクションシーンはもはやなにが起こってるのかもわからない。そもそも一貫して低い作画クオリティは劇場版どころかエロアニメ以下である。

作画が成立していないだけならまだ鑑賞できるが、苦痛だったのは常に音ズレが発生していることだ。声と口パクが一致していないのは当たり前。秒単位でズレているので台詞の途中でカットが切り替わるし、爆発や銃撃の数秒後にSEが鳴る始末。もはや映像作品の体をなしていない。あまりにも音ズレがひどいので、不良品を買ってしまったのかと疑ったくらいだ。

一方で、士郎正宗ファンとしては貶してばかりもいられない。シロマサのキャラクターデザインが動いているだけでも希少だし、意外と世界観がシロマサ漫画作品ぽくって、アニメ作品の中ではかなり氏の漫画に近いほうだと思う(M-66・ドミニオンOVAの次くらいにシロマサ漫画っぽい)。

攻殻機動隊とドミニオンとアップルシードをごちゃっと一纏めにしたような世界観。町並みや警察署のデザインとかはドミニオンっぽいし、政治劇的な要素はアップルシード的だし、義体を使った電脳戦はそのまま攻殻機動隊である。
ここまでするなら”原案”でいいじゃん、って思うが、そうなってないということは、シロマサ漫画からいろんな設定を”つまみ食い”したんで一応クレジットしとかないと、ってことなんでしょうな、うん。氏がこんな凡庸な設定を提供するとは思えない。

その大量の士郎正宗オマージュのよこでは、さらにそれ以上の押井守オマージュが繰り広げられるのがこの映画の混乱してることろで、特にクライマックスの展開は「劇パトじゃねーか!」とツッコみしきりだった。もはやスタッフの「諦め」のようなものすら感じられる開き直りである。

というか、根幹の設定が「ニキータ」からの流用だ(これも全然上手くないんだ)。そういえば金田バイクみたいなのも出てきてたなあ。
なんというか、オマージュとかパロディとかあるいはパクリですらなくて、すべてが「オリジナリティある展開や演出を考える時間もないから他作品を寄せ集めてでっち上げました」みたいな使い方なのだ。ここまで来ると一種の迫力がある。

まぁテンポだけはいいので、珍妙な作画パワーもあって意外と退屈しないのは救いか。B旧映画の勢いがあって実はそんなに嫌いではない。

なお、作画を修正した「完全版」もあるが、色抜けを修正したところで、元の原画のクオリティからして著しく低いのでたいした改善にはならないし、そもそも脚本のクオリティも著しく低いのでどうやっても挽回はムリである。問題作が駄作に変身しただけである。ちなみにこの「完全版」は劇場公開板より10分弱上映時間が短くなっている。つまり作画が間に合わなかったところを編集でカットしているだけなのだ。そんなものを完全版と呼ぶなっ。
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