みかんぼうや

そして人生はつづくのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

そして人生はつづく(1992年製作の映画)
4.1
【イランの実情をドキュメンタリーを超えんばかりのリアリティで描くキアロスタミ作品。もう無条件に大好きです。】

イランの巨匠キアロスタミ監督のジグザグ道三部作の第二作となる本作。本当に素晴らしい作品。ある監督の作品を1~2作品見ただけで、「あ、この監督の作品、無条件で好き」と思うことが稀にありますが、キアロスタミ監督は、まさにその1人です。まだ2作品しか見ていませんが、同じく傑作だと思ったジャファール・パナヒ監督の「人生タクシー」が師匠と言えるキアロスタミの作風の影響を色濃く受けていることを考えると、彼らの“その時のイランのリアルを伝えるドキュメンタリー調の作風”が自分に物凄く合うのでしょう。

物語は、1990年にイランで起きた大地震により、ジグザグ三部作の第一作「友達のうちはどこ?」の出演者たちが被災したことを心配した監督と息子が実際に被災地を訪ねた時の経験をドキュメンタリー風で映画化しています。
この“ドキュメンタリー風”が、本作ではもはや“映画なのか完全ノンフィクションなのか区別がつかない”レベルでリアルで、これは映画として用意されたセリフやセットなのか?そこに配置されたキャストなのか、それとも被災された人を偶然撮影中に見つけて好きに喋らせてそのまま撮影したのか?といった錯覚と混乱をたびたび起こしてしまうほどリアリティに溢れています。実際は、セミ・フィクションという位置づけである程度決められたシナリオとセリフがあるようですが。ただ、確かキャストはほとんど素人なんですよね。

このノン・フィクションドキュメンタリーと思わせるほどのリアリティに溢れた映画には、いわゆる映画的な派手な演出やストーリー展開、分かりやすいナレーションなどはほぼありません。にもかかわらず最初から最後まで惹きつけられ続けるのはなぜか?それは、そこに映し出される実情そのものが圧倒的に魅力的だからです。その実情とは何か?それは、家族を失って悲しいはずなのに、神のご加護を信じ、もとの生活を取り戻すために涙も見せず淡々と、だが力強く動き続ける人々の姿であり、崩れ落ちた家や封鎖された道などの被災地の悲惨な状況と対比的に映し出されるイランの美しい自然たちです。
人の不幸を魅力的なコンテンツとするのは語弊があるかもしれませんが、何があっても前に進んでいく人間の力強さに心を打たれ、大地震の中でも美しくあり続ける自然たちに生命のたくましさを感じます。ただ打ちひしがれてそこに立ち止まるわけにはいかない。まさに、「そして人生はつづく」のです。

イランというと、まず核開発やイラン・イラク戦争のイメージから国際情勢的に危険な国、という印象を持つ方も多いようですが、キアロスタミ作品を見ることで現地の生活をリアルに感じることができ、その国や人々に馴染みを持てるのは、と思います。それはとても貴重なことであり、映画の持つエンターテインメントとはまた違った一つの使命なのかもしれません。少なくとも私は彼の作品で俄然イランという国やそこに住む人々、そして彼らの生活への興味が沸きました。森を見て木を見ずにはならず、彼の作品はぜひ色々な方に見て欲しいと思っています(人によって当たりはずれが出そうな作風ではありますが)。
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