カタパルトスープレックス

王立宇宙軍 オネアミスの翼のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

3.1
1980年代以前(クラシック)と1990年代以降(モダン)のアニメ黄金期の間に挟まれた「アニメ冬の時代」に咲いた徒花です。そして、クラシック世代とモダン世代を繋ぐ架け橋のような日本のアニメ史上における重要作品でもあります。

クラシック世代とは日本のアニメ史を代表する宮崎駿ですし、『機動戦士ガンダム』や『超時空要塞マクロス』のようなリアルロボット系統の先駆けとなるアニメです。そして、『うる星やつら』の押井守監督もクラシック世代に入ります。

田舎から上京して『超時空要塞マクロス』に参加、クラシック世代のレジェンドの一人である板野一郎から直接指導を受けたのが庵野秀明です。板野一郎は「板野サーカス」と呼ばれる目まぐるしい空中戦やリアルな描写でその後のアニメに大きな影響を与えました。庵野秀明が次に参加したのが宮崎駿監督作品『風の谷のナウシカ』です。この時に指導を受けたのが宮崎駿監督本人であり金田伊功です。金田伊功は「金田パース」という誇張された表現が有名な天才アニメーターです(庵野秀明も色々研究したそうですが再現できなかったそうです)。庵野秀明は宮崎駿、板野一郎と金田伊功という大天才から直接アニメーターとしての表現方法を学び、新しい世代として世に送り出された、すごく恵まれた大天才アニメーターなんです。

これは余談ですが、宮崎駿は『超時空要塞マクロス』のような表現が大嫌いだったので、この二つの技術を習得する機会ってそうなかったと想像します。板野一郎のリアル主義と金田伊功のデフォルメ主義って似ているようで全然違いますからね。ちなみにガイナックスにのちに参加する今石洋之(『天元突破グレンラガン』監督でのちにガイナックスから独立してトリガーを設立)が金田フォロワーで有名です。

庵野秀明とその仲間たち(岡田斗司夫、貞本義行や樋口真嗣)はDAICON FILMという同人活動を傍らで行っていました。YouTubeなどで当時の彼らの作品をみることができます。クラシック世代へのオマージュにあふれた非常に高品質な同人作品となっています。そして、このDAICON FILMのメンバーが資金をかき集めて作り上げたのが本作『王立宇宙軍 オネアミスの翼』です。非常に長い前置きでした!

キャラクターデザインはエヴァンゲリオンと同じ貞本義行が担当しています。まだエヴァンゲリオンの雰囲気は出ていなくて、その前の『ふしぎの海のナディア』な感じです。作画は非常に良くできたアニメ作品です。当時の最高峰と言ってもいいかもしれません。しかし、残念ながらストーリーや演出はいま見ると若干退屈です。

しかし、クラシック世代のレジェンドたちからサポートを受けて若い世代が全力で世に送り出した作品です。これがなければエヴァンゲリオンだってなかったのですから、歴史的な価値は非常に高いですよね。