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愛を弾く女のesのネタバレレビュー・内容・結末

愛を弾く女(1992年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

ミハイル・レールモントフの小説『現代の英雄』と、モーリス・ラヴェルの音楽から着想を得た作品。

楽譜に忠実に弾くようにオーダーしたように、きっとステファンはラヴェルのような演奏をする人だったのだと思う。
作家のベンジャミン・アイヴリーがラヴェルはゲイだったのではないかという説を唱える本を書いていたが、今作もラヴェルをイメージしたようなキャラクターであるステファンを精神的に同性愛者であると思わせる人物像にしている。

そもそも愛を細分化していき、友情や家族愛や恋愛などと名前を与えることはナンセンスだと個人的には思うので、ステファンが周りの人間に抱く思いは本人が自覚していないだけでどれも紛れもなく愛だと思う。
気難しく無感情を装い孤独を好みそうな空気を発しながらも一人でいる事を好まないステファンは、かなり面倒くさいキャラクターなのだけれど、彼を慕う人間が一定数周りに存在する事に違和感は感じさせない見事な脚本と配役。カミーユ、マキシム、その他の配役も含めて素晴らしい。
作品を見終わって、カミーユの愛はステファンに本当に向いていたのかと考えてみた。彼女の嘘のつけない真っ直ぐさからして愛していた事は事実だと思うけれど、彼女の愛は最初から音楽にだけ向いていたように思う。長時間向き合い続けていたラヴェル、そこにラヴェルの音楽のような男性が現れたから意識が傾いたように思えてきた。音楽への愛の延長線上にある愛。
作中で善き人間過ぎる男マキシムの愛は、自分とは違い嘘がつけない人間に向かっていたように思う。そういう意味ではカミーユだけではなく、ステファンも彼にとって簡単には別れられない愛すべき人間なのだと思う。

二度の目撃シーンが凄く印象的で良かった。
長年愛してきた理想の師が自分には見せない荒く脆い姿を愛する女性には見せているのだと知った衝撃。一度目と二度目のやり取りを組み合わせたものが街のカフェで繰り広げられていた恋人達の愛の一幕。カフェでみた時は理解できなかった茶番が、あの夜見た一つの愛情の形で腑に落ちる。とても上手い構成だった。

この作品を台無しにする可能性のあった演奏シーンもエマニュエル・べアールの名演技で違和感なく物語に入り込める。
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