囚人13号

愛しきソナの囚人13号のレビュー・感想・評価

愛しきソナ(2009年製作の映画)
3.9
身内にカメラを向け続けた監督、日本(父母)と北朝鮮(その他親族)との媒介者たる彼女は姪ソナに自らの少女時代を投影する。

二つの国に慣れ親しみながら遂にどちらに肩入れすることもなくカメラを回し続けた彼女の周囲では十三年の時が流れ、ソナの母は二度も変わり、家族も減っていく。国交の安定は未だ実現しない夢のまた夢、しかしそれが国際的なメッセージではなく、あくまで一個人の家族譚であるが故我々の胸を打つ。

ドキュメンタリーとはいえ単なる自主制作者にしては異様なカット量から専門的な技法を見いだせ、パンフレットを一読してみると彼女は長編デビュー以前にTV番組の制作に着手しているとあって納得。

記録映像における長回しの美学とは主にリアリズムであるが、それよりもドキュメンタリーというかカメラの残酷さは思わぬところで露呈される。現実ではもう生きていない人間が元気にこちらへ笑いかける様が刻まれ、大病を患った人間の衰退が克明に記録されているのである。

カメラを向けられても別段反応しないソナと比べてそれに明らかな反応を示す小学生たちは見事、初めて触れる事物に対する興味≔無垢の表現はリュミエールのそれに匹敵するほど素晴らしかった。
囚人13号

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