実際にあった事件を下敷きとしているということを知っていたせいもあるが、ネグレクトのドキュメンタリーを見ていると錯覚するようなリアリティーに圧倒された。
是枝監督自身がのちに語っているところによると、「子役とYOUさんには台本渡していません（笑）」ということだそうで、口伝えで言葉を伝えていくという演出方法をとったとのこと。これにより、物語の状況と、役柄の人格と、演者の肉体と、発せられる言葉という要素それぞれが、実に自然に一体のものとなっている。これがこの作品のリアリティーを生んでいると思うのだが、こういう特殊な演出方法を貫徹できたのは、監督が脚本と編集も全てこなしているからであって、職人・是枝裕和のこだわりが詰まった一作である。
そんなわけで、YOUと４人の子役はそれぞれ素晴らしい演技をしているのだが、最も重要な役柄である長男を演じた柳楽優弥は、すごいの一言。年齢なりの寂しさは当然抱えているのだが、それを押し隠しつつ、時折それが滲んでしまう、というあたりが名演技である。「見た目は子供、頭脳は大人」というのは、アニメなら表現しやすいが、生身の人間はそのようにできていないわけで、実際にそれを演じきったのは大変なことである。
以下雑感。
・階段のシーンが印象的。十九歳の地図（柳町光男監督）を彷彿とさせる。
・子供たちの父親がキム兄やエンケンというのは、母さん個性派好き過ぎ。
・エンケンさんが最後にいう台詞が、ビジターQ（三池崇史監督）を思い起こさせる。
