SANKOU

誰も知らないのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

誰も知らない(2004年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

是枝監督らしい日常をそのまま切り取ったような演出が、とても残酷な現実を突きつけられたようで観ていて心が痛かった。
まともな親は子供を部屋に閉じ込めたまま隠したりしないし、子供を平気でほったらかして何日も家を留守にはしないし、学校へ行きたいという子供の当たり前の願いを拒んだりしない。
この映画で四人の子供の親であるけい子はまるで子供がそのまま大きくなったような存在だと思った。
自分が親である自覚があまりにもなさすぎて、まず自分の幸せを先に考えてしまうところや、明にすべてをまかせて、自分は責任を取ろうとしないところが許せなかった。
しかし、親としては失格だがその明るい性格から子供たちにとても慕われていて、明と二人で買い物したり、子供たちと楽しく会話しているシーンだけ切り取れば、とても幸せな家族に見えてとても切なくなった。
問題は彼女だけでなく、それぞれの子供の父親たちの無責任さにもあった。いずれも自分たちが生きていくだけで精一杯で、明が尋ねて行くときだけ一応いいところを見せようとするが、結局は何の責任も取らない。
観ていて辛かったのは、明がとても優しい少年で父親たちの情けない姿を見ても、夜母親が眠りにつきながら涙を流す姿を見ても、それぞれに辛い思いをして生きていることを汲んであげようとするところだ。
そして警察に相談するなど、何らかの解決方法はあったはずだが、そうすれば四人で一緒に生活することが出来なくなってしまうと、あくまで自分たちで何とかしようとする姿も。
母親が帰らず子供たちだけの生活が始まってからは、徐々に明だけでなく他の姉弟たちの心もすさんでいき、観ていて辛いシーンが多かった。
彼らの目から普通の人々の生活がどれほど眩しく見えることか。
ただギリギリの生活の中にも、彼らのことを気にかけてくれる人達がいるのは救いだった。
毎度廃棄されるコンビニのお握りを分けてくれるお兄さんや、グラウンドを見つめる明に声をかけて、野球の試合に出してくれた監督の優しさが心にしみる。
この映画の中の時間の経過と共に、実際に子供たちも成長していくのが、より一層台詞のひとつひとつに重みを感じさせ、また現実の厳しさを見せつけられるようだった。
彼らは成長していくが、戸籍上はどこにも存在しない子供たちなんだと思うと、終盤に起こるショッキングなシーンがとても耐え難かった。
全編通してとても重く厳しい現実を捉えた作品だが、劇中のゴンチチの奏でる音楽がとても優しさと明るさに満ちていたのと、明役の柳楽優弥の真っ直ぐな瞳に救われたような気がした。
この映画は終わっても彼らの物語は続くが、絶望だけではない未来を予感させるラストも良かった。
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