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赤ちゃんよ永遠に SFロボットベイビーポリスの一人旅のレビュー・感想・評価

4.0
マイケル・キャンパス監督作。

食糧危機によって妊娠・出産禁止令が発令された近未来世界を舞台に、人目を忍んで赤ちゃんを産み育てる夫婦の姿を描いたSF。
不気味で陰鬱とした世界観が印象的だ。夫婦の住む荒廃した都市は毒ガスが充満していて、人々は毒マスクを常に装着している。配布される切符で日々を生きるための食糧を確保する。人々が口にする食糧も、肉や魚ではなく人工的な食品だ。食糧が充実していた過去の時代の資料映像を“怠惰な食生活を送る人々”として批判的に紹介する。だが、山盛りにされた肉の映像を見た人々は唾をゴクリと呑み込む。現状の生活を受け入れながらも、心の奥底では自由に食べて飲んで人生を思いのままに楽しむことのできる前時代的な生き方に憧れているのだ。
都市の異常な環境と人々の食事情以上に不気味で恐ろしいのは、自動的に堕胎してくれる機械が各家庭に設置されていることだ。“堕胎”と書かれたボタンを押すと、超音波か何かが出て赤ちゃんをお腹から消し去る。暑いからエアコンのスイッチを押すような感覚で、ボタンを押すだけで手軽に堕胎できる。命の尊厳が極端に軽視されているのだ。何より恐ろしいのが、それが社会が決めた立派な正義であるということ。不法に妊娠したり出産すると即刻死刑に処せられる。透明なドームに罪を犯した人間を閉じ込め、ゆっくり時間をかけて窒息死させるという残酷な処刑方法も恐ろしい。
そして、本物の赤ちゃんの代わりに人々はロボットベイビーを育てる。機械的に言葉を繰り返すだけで心の通わないロボットを我が子のように慈しむ姿は不気味である以上に悲しい。本物の赤ちゃんを見た友人夫婦の冷酷な対応も、一見すると憎たらしく許せない行為だが、子を持てない友人夫婦の悲しみも良く伝わってくるから辛いのだ。
食欲や性欲、そして自分の子どもを産んで育てたいという人間の本能的欲望を著しく制限する社会に対する一抹の抗いを、一組の夫婦は命懸けの行動で示す。無機質で人間味のない世界の中、赤ちゃんに対する夫婦の深い愛情だけが本作におけるただ一つの人間らしい心として描かれているのだ。
食糧危機や環境汚染といった問題が物語に絡んでいることも妙に現実的だ。増え続ける人口に対する強制処置という面でも、最近まで一人っ子政策を実施していた中国の例もあるから、世界規模の人口抑制策が採用される可能性が全くのゼロ・・・というわけではないと思う。さすがに“堕胎ボタン”はSFだが・・・。
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