くりふ

ミルクのくりふのレビュー・感想・評価

ミルク(2008年製作の映画)
4.5
【セルロイド・アフェクション】

初見でもいいな、と思ったのですが、伝記を読んだ後DVDでみ直したら、自分の中では傑作に昇格 (笑)。知識と反比例して色褪せる映画もありますが、本作はハーヴェイ・ミルクを知るほどに、その良さが沁みてきます。

映画として狙いが正確ですね。そして何よりG・V・サント監督の、登場人物に注がれた愛情が、清々しく伝わることが素晴らしい。

ミルク以下、登場人物が生き生きとして、物語に従属していない所がよかった。伝記の中には面白い活動施策など色々出てきますが、それらは具体的に描かず、登場人物の精神性と、彼らの心の動きを前面に出した作りになっていますね。そして、政治活動の話なので皆よく語りますが、それがきちんと、自身の内側から湧くようにして語っている。そこがとても生きた感じがする。

出てくる男たちが、とてもチャーミングでした。他に言葉が思いつかない(笑)。ミルクもオヤジだがどこかカワイイ。ミルヒー、と呼びたくなります(…あれ?)。

自分でも不思議なのですが、男同士のラブシーンにも素直に共感しました。欲情より交歓の強い、透明感のある描写を、素直に美しいと感じます。ミルクの速攻愛には驚きましたが、「旺盛」な人だったそうで、再現なんですね。

1995年のドキュメンタリー『セルロイド・クローゼット』では、フィルムの中に同性愛を隠した時代の、秘められた映画が語られていました。最近では『ブロークバック・マウンテン』で、扉が閉じられたのが痛かった。が本作は、映画としては初めからクローゼット全開。中から溢れる愛情も全開。そして開けた結果が厳しく終わっても、その行為は引き継がれて、もう消えない。そこを描けるのが、ハーヴェイ・ミルクを映画化する強みだと思います。

光の使い方がとてもよかったですね。映画史に残る程ではないのでしょうが。恋を描く冒頭は、全方位からの光に包まれつつ、人物の輪郭が優しく際立つ。しかし、政治の世界に踏み込んでからは、みるみる影が増えてゆく。そして要所で対峙される、光と闇。最大障壁となる人物と、ミルクの初ツーショットで、一方の行末が暗示されます。

ミルクの恋人も、人物の違いにより、愛の場で明暗がわかれてゆく。光と闇は、終盤ではっきり二分されますが、普通に考えるものとは逆に対置され、ここにサント監督の問題意識が潜んでいるように思いました。置かれた闇の中からは、後に数多の光が点って来るわけですが。

ドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』にはかなり影響されたようですね。そのせいか、少しそちらに囚われ過ぎかも。若干、窮屈なところも感じます。しかし、事件のその後を描かず、「HOPE」でまとめたのは正解だと思いました。

賛人歌、とでもいうように人物を称える、心洗われる音楽がまたよいのですが、これがダニー・エルフマンと知って驚きました。こんな引き出しもあるんだ。

音楽で一つ勉強になったのが、ゲイ・パレードで『虹の彼方に』が流れること。何故? と思ったのですが、自身バイセクシュアルであり、ゲイの応援者だった、ジュディ・ガーランドは生前、彼らのアイドルだったんですね。知らなかった。集会等でこの曲と、レインボーフラッグを使うのは定番なのだとか。本作でもミルクの演説の後、虹の垂幕が風に揺れておりました。なるほどです。

<2010.1.21記>
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