半兵衛

デルス・ウザーラの半兵衛のレビュー・感想・評価

デルス・ウザーラ(1975年製作の映画)
4.5
父や子、あるいは師匠と弟子など親子的関係の葛藤を多く取り上げてきた黒澤明が珍しくブロマンスな関係性を取り上げたのが本作。ただし潔癖な黒澤らしくあくまで純粋な男の友情を超えず、都会育ちのアルセーニフと自然で生きてきたデルスの関係性を通して近世と古代という結び付きそうでくっつけない二世代の葛藤を描いているのが彼らしい。

そんな二人が出会い共に体験するシベリアの自然を美しく捉えた映像の数々はもはや一幅の絵画と呼んでも過言ではない完成度で、しかも第一部では冬の厳しい環境、第二部では夏から秋にかけての豊潤な世界とそれぞれで季節を区分して取り上げ画だけでもその芸術性を堪能できる。特に冬の道で遭難した二人が、夜になる前に藁をかき集めて寒さを凌ごうとする場面は自然の冷酷さと夕陽の美しさがない交ぜになった名シーンとなっている。監督が得意とする長回しも冴えており、役者が本当に画面で生きているような息づかいを感じる。

しかしそんな麗しい世界もデルスが徐々に文化に触れていくことにより崩壊していくのが友情が本物である分余計に切なくなる、そしてアルセーニフの行為が仇となりデルスが迎える結末は虚しくて文明を背負った人間の業を突きつけられているようで呆然としてしまう。

それにしても周囲の反対を押しきってアメリカでの興業をおこない、黒澤明が本作でアカデミー賞を獲得するきっかけを作ったロジャー・コーマンは単なるプロデューサーを超越した、超一流の映画人であることを再確認。
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