亜硝

マンダレイの亜硝のネタバレレビュー・内容・結末

マンダレイ(2005年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

脚本すご 気持ちいい〜

舞台装置の目新しさがない分ドッグヴィルほどの体験は期待してなかったけど、脚本のメッセージ性はクリアだし伏線も多くかつ回収も丁寧なので、非常に口当たりが良く、洗練されている印象がありました。前作がわりとはちゃめちゃでカオスだったのに対しかなりクール。ふつうに面白かったし、なにより出来が良い!となりました。

序盤の方はグレースがマンダレイに滞在する動機が弱いのが気になって、シミュレーションゲームをプレイしてるのを見てる気分になりました。今回はギャングが初期からバックについてるので、住人に気に入られなくても脅せば動いてくれるし、ヌルゲー感が漂っています。

しかし、木を伐採しちゃったことで砂嵐が防げなくなったということにグレースがうすうす気づいたところ!あそこ辺りから急に面白くなりました。この善意が裏目に出ちゃったときの絶望感、まさにトリアーの十八番でゾクゾクしましたね……最高

他にも、イカサマ師の「下から取る」のダブルミーニングとか、安心して眠らせてから銃殺するところとか、「1と読みたかっただけなのだ」とか、グレースの機転を効かせたマンダレイからの脱出とか、あったま良いな〜……と感心させるような演出、展開、台詞がポンポン出てきて心地良かったです。時計がズレてるところまで伏線だとは思わなかったよ。お見事

本作の根底にある「本当に自由は人間にとって背負う価値のあるものなのか?」という問いは『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」の章とかフロムの『自由からの逃走』などでも繰り返し語られてきたし、もっと直接的にはよくディストピアの最高権力者が主人公に問うてきますよね。今作に限って言えばグレースよりも、あくまで民主的に支配されることを選んだマンダレイ側の言い分の方が筋が通ってるな、と感じました。やっぱり支配されることのメリットはバカにはできませんよね。国難を乗り切れるのは得てして全体主義国家なわけですから……。そこまで一般化しなくても、世界の側の準備が整ってないうちはあえて旧式の法に従うという選択は非常にクレバーだな、と素直に感心しました。うーん、グレース、今回は焼くほど腐った村ではないよね。まんまとしてやられた感がありますな。

グレースのキャラの連続性はあんまり意識せずに、アメリカ閉鎖社会ツアーに赴いたGさん、くらいの匿名的な感じで観るのがいいかもしれませんね。前作であんだけレイプされたこと全く触れずに健全な性描写するのは流石に無理ねーか!?オイオイ!となりましたもの。でもまあ役者も変わってるぶんそんなに違和感も無かったですね。ブライス・ダラス・ハワードのほうが性欲強そうだし(偏見)

総評すると「力のドッグヴィル」に対する「知のマンダレイ」という感じでしょうか。第三部ではなにを見せてくれるんだろうな、楽しみだなぁ(お願いしますよ!本当に!!)
亜硝

亜硝