みかんぼうや

お早ようのみかんぼうやのネタバレレビュー・内容・結末

お早よう(1959年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

「東京物語」で小津監督にハマり、他の作品をもっと見たいと思い、あらすじを読んで選んだ一本。昭和の日常のどこにでもある家族像を描くという意味では「東京物語」と同じだが、こちらはコメディタッチで描かれており作品の色合いは大きく異なる。が、やはり面白い。

子どもたちのちょっとした意地から巻き起こるちょっとした近所間のいざこざは、どこの家庭にもありそうなエピソードだが、脚本によってとてもコミカルかつ巧妙なストーリーになり、映画全体のコミカルな演出も合わさって見ていて微笑ましい。しかし、その中には実は強烈なメッセージが含まれていることに後半気づかされる。それは、「余計な口をきくな」と大人たちに注意され、意固地に口をきかず近所にあいさつすらしなくなった子どもたちが「大人だって”おはよう”とか”こんにちは”とか毎日余計なことを言っている」という考えを持つことに対する、近所の英語の先生が発する一言「そんなことは案外余計なことじゃないし、それを言わなかったら世の中、味も素っ気もなくなっちゃうんじゃないかな」「無駄があるからいいんじゃないかな、人生は」。彼は別のシーンでも自分に言い聞かせるようにこうつぶやく。「その無駄が世の中の潤滑油になっている」と。

ちょっとした挨拶とは、もしそれが無かったとしても、人生自体は回るものなのかもしれない。しかし、その一見無駄ともとれるその言葉たちがあるからこそ、人々が繋がって通じ合っていく。まさに人生の潤滑油。彼の発したこのセリフはとても心に沁みるとともに、「お早よう」という本作品のタイトルの意味合いに気づき、その重みが一気に増した瞬間であった。

色々と書きましたが、上記のメッセージ性の強さや巧妙な脚本はもちろんのこと、もう一つの大きな見どころはやはり主役の子どもたちです。とにかく一つ一つの言動が本当にかわいい!テレビ一つで一喜一憂する様子、大人たちへのささやかな抵抗、そして時折弟が見せる得意げに腕を振り下ろす謎のしぐさ。やはり映画的な過激でドラマチックな展開の作品ではありませんが、この2人の子どもたちを見てるだけでも、当時の日常を楽しみながらほっこりと温かい気持ちになれる映画です。私的には「リアルAlways3丁目の夕日」的な作品でもあります(繰り返しますが、Alwaysのような劇的な流れにはなりません)。
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