さすらいの用心棒

ど根性物語 銭(ぜに)の踊りのさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

3.6
勝新太郎主演、市川崑監督のスタイリッシュ・アクション。勝新太郎にとっては初の現代劇になる。

なんとも不思議な映画だ。勝新太郎が「悪い野郎は許しちゃおけねえ!」と机をひっくり返して大暴れしてるのに、背景にはサックスとドラムだけのジャズが流れ、素早いカットでもショットの構図が美しく決まっており、クールでモダンな印象が残る。正義感に熱くたぎる男を冷徹な眼差しで捉えていながら、勝新の「無手勝流のダナミック」さがどしどし伝わってくる。チグハグな演出なのに、違和感がない。
市川崑の歯切れの良いテンポ、宮川一夫の凝った画づくり、勝新太郎の存在感のある演技、三拍子そろっているのにかくも中途半端な印象が残るのは、この時期、春闘に入った大映での時間ストによって、規定時間になるとスタッフが帰るために脚本の七割しか撮影ができなかったのが要因である。市川崑と和田夏十夫妻のペンネーム「久里子亭」で書かれた、しかも珍しくオリジナルの脚本なだけに、惜しい・・・。だが、夏十さんが書いてるだけあって名ゼリフが多いのはさすが。
家を建てるために大映に借金してた市川崑が、永田社長からの突然の依頼に応じて即席で撮った感じもするが、その軽さが軽妙さにつながっていて、嫌いになれない。
味噌汁をポタージュと言い、ごはんをホワイトライスと呼称する食堂ネタはその後『病院坂』にも登場するが、これは実際に夫婦揃って行った食堂で体験したことを基に書かれているらしい。