Sari

誰も知らない基地のことのSariのレビュー・感想・評価

誰も知らない基地のこと(2010年製作の映画)
4.0
世界40カ国に700ヶか所以上存在する米軍基地。なぜ世界中にあり続けるのかを問いかけるドキュメンタリー。

イタリアのドキュメンタリスト、エンリコ・パレンティとトーマス・ファツィ、当時33歳と29歳の若い監督が、広範囲の要素をわかりやすく構成したことは驚きであった。

日本国内では多くが沖縄県内に集中しているが、その沖縄を含め、イタリアのビチェンツァ、インド洋のディエゴ・ガルシア島などを取材、基地に土地を奪われた当事者や、ゴア・ヴィダルやノーム・チョムスキーほか有識者へのインタビューを加えながら、東西冷戦期からソ連崩壊、歴史的推移を丁寧に追いながら、米軍が駐留する理由が軍事的背景から経済的必要性へとすり替わっていった変遷と、そこから見えてくる世界の現在形を写し出す。

訓練された米兵士は、攻撃的になって当然であるとの都合のよい基準が設けられ、アメリカは罪を封じてきた。受け入れた国で、米兵が事件を起こしても処罰されない信じがたい事実。実際、沖縄で1995年に起きた米兵による婦女暴行事件についても触れられている。また、沖縄の大学に基地の飛行機が墜落した事故が発生し、幼い子どもたちは空を行き交う飛行機の墜落に怯え、沖縄県民は一日中続く騒音に苦しみ続け60年以上(この映画公開時)も耐えてきた。
米軍基地は、世界で716と言われているが、政治的理由からリストに除外されている国もあるらしい。映画公開時である14年前より、今はさらに増えているのだろうか。

『新たな敵=新たな戦争=軍事力強化=駐留軍=軍産複合体=国策の軍事化=権力の乱用=権利の侵害。』このように、映画は戦争へ突入した理由を明らかにしている。

基地問題だけではない。戦争がもたらした悲劇は略奪された日本の北方領土問題も同じである。

かつて沖縄を観光目的で初めて訪れた時、沖縄戦の史実を知らなかった自身を恥ずかしく思う。この映画はすべてに答えを出すタイプのドキュメンタリー作品ではないが、戦争と基地問題を考えるきっかけとして入門編となる秀逸なドキュメンタリーである。
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