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痴人の愛のtakのレビュー・感想・評価

痴人の愛(1967年製作の映画)
3.5
「歳をとって女に熱をあげると狂うぞ」

若い頃、身近なある人が言っていた。その時は何気なく聞いていたのだが、それなりの年齢になってその言葉が気になってきている。あ、別にそんな状態ではございません、念のためww。映画をあれこれ観続けていると、目の前に映し出される様々な人生を学ぶことになる。男が女に「狂う」をこういうことか、と感じた映画も数々ある。例えば「北斎漫画」のフランキー堺。若い女をつなぎ止める為に、初老の男がいろんな意味で身を削る様をスクリーンの中に観てきた。その度に前述のひと言が、教訓めいた意味をもって思い出される。なんかの呪縛にかかったみたいに。

リスペクトしている小沢昭一センセイが主人公河合譲治、ナオミを安田道代が演ずる増村保造監督版。人間の欲望という部分だけを切り取って90分間につなぐとこうなる、と見せつけられたような気持ちになる。男と女なんて、一皮むけばこんなもんだぞ。ナオミを飼っていたつもりの譲治が、彼女がいなくなった部屋で裸の写真並べて名前を呼びのたうち回る。戻ってきたナオミが再び譲治に馬乗りになり、いろいろ要求した上で「やっぱりあなたしかいないのよ」と譲治の背中に向かってポツリと言う。その二人の姿は醜いし、痛々しい。だけどけしからんとも許せないとも思わない。だって、男と女のことなんだもの、当人たちにしか分からない世界がある。その姿を見て「こうはなるまい」と思っている人は、きっとたくさんいる。でもここまで溺れてみたいと思う人も、きっとたくさんいる。

理想の女性に育てようとする男の物語と言えば「マイ・フェア・レディ」だけど、そんなスマートな話ではない。家に連れ込んでほぼ監禁、観察日記のように裸の写真を撮りまくり、風呂で肌を磨く偏愛ぶり。ヒギンズ先生はこんなことしませんw。この物語に比べたら、「完全なる飼育」も色褪せて感じる。やっぱり谷崎潤一郎が男と女を見つめる視点は深い。だからこそ、谷崎作品は文学や映像化した作品に触れる僕らを非日常に連れて行ってくれ、何度も味わいたくなる魅力を持っている。

谷崎潤一郎の小説を読み終えたとき、映画化作品のエンドマークを観るとき、僕の心の片隅でまた例の声がするのだ。

「わかっただろ。狂うぞ」

「女性上位時代」でカトリーヌ・スパークがジャン・ルイ・トランティニャンに馬乗りになる場面があるけれど、「痴人の愛」の影響とかではないんだろな。増村保造監督版と同時期だけにちょっと気になる。
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