半兵衛

忘れられぬ人々の半兵衛のレビュー・感想・評価

忘れられぬ人々(2000年製作の映画)
3.3
戦争の陰を引きずる男たちが仲間や知り合いが悪党に被害を受けて怒りに駆られ彼らを倒すという任侠映画のフォーマットを踏まえたような一作だが、90年代末期&監督が黒沢清や北野武から強い影響を受けているためか熱量はなくやっていることはアクションなのにひたすら行為の空虚さが伝わってくる。それでも主人公たちの思いがリアルな感覚で肌で伝わるのはやはり主役三人が現役で戦争を体験しているというのが大きい、特に映画同様実際にペリリュー島で死闘を繰り広げた青木富夫(突貫小僧)やシベリア抑留を経験している三橋達也の存在が「現在の日本に対する複雑な感情」に説得力をもたらす。

こういう任侠的なアクションに三橋達也が出るのは珍しいが、三橋のドライな持ち味が篠崎監督の乾いた作風とマッチしていていつものやくざ映画とは違う味わいを出している。そんな彼の殴り込みを本家東映で活動してきた大木実がサポートするというのがいいね。そしていつもは飄々とした三枚目キャラの青木富夫が悪党に対して真っ先に怒りをぶつけるのが熱い。

篠田三郎の心ががらんどうな悪党が怖い、そして『大日本帝国』で日本帝国軍人役を演じた彼にガチの経験者である主役三人と対峙するという構図が皮肉。

戦前東宝で主役俳優として活躍して戦後俳優の傍らボディビルダーで活動した佐伯秀男やブレイク前の皆川猿時、大森南朋、井口昇、うしおそうじ、春風亭昇太、芳賀優里亜、松尾諭、評論家の木全公彦など出てくる脇の面々が異様に豪華。

三橋と交流する混血児の存在が癒しで、彼の存在がラストに希望の光を見いだす。

北野武が後に製作した『竜三と七人の子分』とフォーマットが似ている気がするが、やはりこの作品を意識したのだろうか。だとすると本作のようにシリアスにせず、自分の老いを投影しつつおちゃらけた映画にしているところに武らしい諧謔精神を感じさせる。
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