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幕末のodyssのレビュー・感想・評価

幕末(1970年製作の映画)
4.0
【竜馬がゆく】

BS録画にて。
原作は司馬遼太郎の『龍馬がゆく』だそうですが、そちらは読んでいません。

幕末にあって、土佐藩内部の上士(上級武士)と下士(下級武士)の対立や、新しい世の中を目指して結束したはずの下士たちの中にも商人差別があるなど、ちまちました土佐から抜け出した竜馬(中村錦之助)が、日本の近代化を目指して立ち上がり、これまた武士のメンツにこだわる長州と薩摩の仲間ゲンカを仲裁し、大政奉還への道筋を作り、さらには勤王の域を超えて天皇が人民の前で人間として振る舞うといった、戦後民主主義的な構想まで練る、といった筋立てになっています。

 どこまで史実に忠実なのかは分かりませんが、まあ一種の坂本竜馬中心史観でできている映画ですし、歴史の流れを先取りして現代的に描いたと思えば違和感もありません。

 そもそもこれは1970年初頭に公開された映画であり、当時は学生叛乱の季節で、大学キャンパスや都内の各地で左翼学生と機動隊が衝突していた時期であることを考えると、そういう時代が反映された映画とも受け取れます。

 竜馬役の中村錦之助のほか、親友の中岡慎太郎が仲代達矢、勝海舟が神山繁、西郷隆盛が小林桂樹、後藤象二郎が三船敏郎、竜馬の妻役が吉永小百合など、配役も豪華。

 しかし内戦をもっとも戒め、薩長が徳川に代わるといった構図を嫌った竜馬の意図に反して、その後薩長が佐幕側を追いつめていくことになるわけで、佐幕側である長岡藩の「幕末」を描いた映画『峠 最後のサムライ』が目下公開されていることを思うと、大転換期の歴史は白と黒の区別を大きく超えたところにあるという感慨を覚えないではおれませんでした。
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