デニロ

夫婦のデニロのレビュー・感想・評価

夫婦(1953年製作の映画)
4.0
1953年製作公開。脚本水木洋子、井出俊郎。監督成瀬己喜男。

結婚6年目の夫婦。上原謙と杉葉子。夫の地方から東京への転勤で家探しのために実家の鰻屋に戻った杉葉子。5年ぶりの同窓会の帰りかデパートの屋上でひとりはしゃいでいる。友人ふたりはそんな彼女を見ながら田舎臭い髪ちゃんとしたらいいのに、あなた注意してあげたらなんて言っている。

脚本で描かれる物語がどこかで見聞きしたような話で身につまされたりもし、台詞に毒々しさを放り込んでいたりして背中に汗が流れたりもしようというものだ。成瀬己喜男の演出もリズミカルで人の出入りの多い脚本を急かずに落ち着かせていく。

が、何よりも杉葉子の奥さんが可愛らしいといおうか可憐といおうか美しいといおうか、その屈託のない笑顔で魅力満開。こんな女性が近くにいたらよろめいてしまうのは極自然なことなのではあるまいか。愛妻を失いしょぼくれていた三國連太郎が彼女を見た途端に表情が和んでしまうというのも宜なるかな。その彼女の夫上原謙は曖昧な性格で、なんともはっきりしない。彼女のその魅力を十分に知っているはずなのにもう当たり前になってしまったのか。

中北千枝子は言う。結婚後何年かして妻が寝返りを打つと夫は努めなくてはならぬのかとゾッとするそうよ。藤原鎌足も言う。女ってもんは、5、6年経つと地金を出してきて、そのころの女ほど男にとって憎たらしいものはない。

さて、三國連太郎が不思議な役を演じる。亡くしたばかりの妻をあんな良い妻は他にいないと言いつつ、杉葉子の立ち居振る舞いに触れるや、死んだ妻は台所の流しに皿や箸を放りっぱなしだったし見た目も悪かったけど丈夫だけが取り柄だった。でも、肝臓を病んであっという間に死んでしまった。これじゃ何にもなかった女じゃないか、と身も蓋もないことを吐き出してしまう。杉葉子を見てからこんな女性もいるんだ、ともはや先妻のことなんてどこかへ行ってしまう。と思うや否や、杉葉子がいなくなったその日に訪ねてきた、彼を以前から慕う同僚の女性を手に入れたりもする。当時の世相から家はなかなかないが女房ならいくらでもいるだろうということなのか。純情なんだか不実なんだか。

ラスト。再び上原謙の駄目さ加減を浮かび上がらせる。このふたりこの先もこんな風に続いていくのだろうか。それとも、来年は結婚7年目・・・むず痒いのか。

国立映画アーカイブ「逝ける映画人を偲んで(杉葉子)2019-2020」にて
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