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エレファントのEyesworthのレビュー・感想・評価

エレファント(2003年製作の映画)
4.5
【青年達の静寂なるカウンター】

ガス・ヴァン・サント監督が米国コンバイン高校で実際に起きた銃乱射事件をモチーフに描いた2004年の作品。

〈あらすじ〉
この映画には、泥酔の父を乗せて遅刻した金髪でイエローの服のジョン、公園でカップルに声を掛けてスナップショットを撮影するイーライ、アメフトの練習を終えて彼女のキャリーもとへ歩いていくネイサン、それを見て噂話に花を咲かせるダイエットに夢中な3人の女子達、体育の授業を終え教師にチクチク文句を言われるミシェル…と何人か我々の視点の対象となる生徒が映し出される。その中に異質な二人組もいた。学校でいじめを受けている場面が見られたアレックスは、自宅のピアノで拙い『エリーゼのために』を演奏する。親友のエリックと宅配便で銃を受け取ると、二人一緒にシャワーを浴び、これまで経験のなかったキスを試してみる。そして日常の延長線上にある"反撃"を開始する。重装備を抱えて校舎に入っていき、外のジョンに声を掛けてすれ違った後、校内の人間を次々と射殺していく。

〈所感〉
個人的にガス・ヴァン・サント監督作品は初鑑賞だっただけに相当異質に映った。
ガス・ヴァン・サント監督は監督インタビューにて、見ることと見られることの関係を掘り下げることによって、彼らの意識や内面を浮き彫りにしようとした、という旨の内容を語っていた。誰が見てもわかりやすいいじめだけでなく、ミシェルが晒される冷ややかな視線のように存在を否定されることもまた暴力なのだ。
このような日常に潜む暴力に対する反撃の手段として二人が選んだのが銃乱射だった。この誰が見ても非対称な暴力が対等なものとして描かれているのがこの作品の面白いところだ。不条理に罪無き生徒達が殺されて可哀想…という話ではない。アレックスとエリックら当事者にとってはそれくらい深刻なことで、人知れず高校に対する怨恨は凄まじい程に強まっていたのだろう。また監督は「感情移入を促すための筋書きにもしていない」と語る。確かに長回しで彼らの日常が見られるが、それは彼らに感情移入できるほどの材料ではない。長い一日の一コマ一コマでしかないからだ。正直殺されても全く悲痛が湧いてこない。その作為的な仕掛けが残酷な無差別殺人の恐ろしさと陳腐さを物語っている。ドラマチックなバイオレンスなどどこにも無いのだ。
英語の慣用句で、"the elephant in the room〈部屋の中の象〉"という言葉がある。部屋の中に象のような巨大なものがいれば、当然誰の目にも入るが、その事をあえて話題にせず見て見ぬふりをする、という状況を意味する。この社会・世界には、そのような誰もが見聞きして知っているが、無視している事態(暗黙の了解)が多く存在する。それらは社会に順応し組織で適応するために自然に身につく能力だ。何より不合理にいちいち目を向けていたら生きるのが困難になる。でも時に意識して芽を摘んでやる必要がある。彼らのような静かなカウンターを防ぐために。
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