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あなただけ今晩はのodyssのレビュー・感想・評価

あなただけ今晩は(1963年製作の映画)
3.5
【ややゆるい作品かな】

ビリー・ワイルダーの映画、私はそれほどたくさん見てはいませんが、今まで見た中で(『麗しのサブリナ』『失われた週末』『昼下がりの情事』『サンセット大通り』など)言うと、ちょっとゆるい作品かなと思いました。

もともと彼の映画は普通の意味でのリアリティよりも、いかにも芝居がかった筋書きや演出による面白さが勝っているのですが、この『あなただけ・・・・』では芝居がかった部分が強すぎて、ややリアリティを損なっているのではないでしょうか。

例えば脱獄シーンだとか、ジャック・レモンが英国貴族に化けたり元に戻ったりするシーンです。あの辺はいかにもマンガチックで、「これは作り話だからね」と言いながら映画を作っているような趣きがあります。喜劇なのだからそういう作りは当たり前と思われるかも知れませんが、他のワイルダー作品(例えばヘプバーン主演の2作品)であればフィクションとして筋書きが進みながらもどこか「本当にあるかも知れないな」と思わせるぎりぎりのリアリティが確保されていたのに、ここではそれが放棄されているのです。

ジャック・レモンが逮捕されてからの運びも、いかにもご都合主義で、またシャーリー・マクレーンが最後には真実を知るのかとおもいきや、そうではなく、強引にハッピーエンドに持っていったような印象は否めません。

上映時間もやや長めで、もう少し削ったほうが全体が引き締まって質が向上するでしょう。最後は英国貴族が川の中から登場して、「不条理劇かっ!」と言いたくなる終わり方。まあ、万事を解決して終わる定番的作りを拒絶したのかもしれませんが、全体のゆるさと合わせて、ワイルダーは完結した映画を作る意志を失っているのではないかと思わせる作品でした。

なおヒロインのシャーリー・マクレーンが、こう言っては失礼ですが、年をとった昨今とは全然違った美しさを見せてくれるところは、買いです。
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