義民伝兵衛と蝉時雨

馬の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

(1941年製作の映画)
4.3
戦時中に制作された所謂国策映画のひとつだがその色合いは極めて薄い。山本監督が本来描きたかった人間と馬の交流の物語を描く為に、計略を巡らし、本作に軍馬の要素を組み込んだことによって、軍部から製作OKのサインが出たとの逸話も面白い。そんな逸話もさる事ながら内容が頗る素敵である。東北の農村の人間家族と馬親子の心温まる触れ合いの物語。笑い大いにありそして涙あり。そこに戦時中の文化や習俗の実情も垣間見え、日本の伝統的な精神性が脈々と流れている敗戦前の祖国の光景に釘付けになった。その上、映像美も素晴らしく、当時の田舎の自然、農村や田畑の四季折々の風景、そしてカメラワークや構図もとても味わい深い。監督・脚本名義は山本嘉次郎だが、助監督の黒澤明に大部分を任せっきりだったらしく、実質的には黒澤明の処女作とも言われているとのこと。そして何と言っても高峰秀子の放つ眩い輝き。当時16才の少女高峰秀子の圧倒的なヒロイン感と卓越した演技力は圧巻。そして馬好きとしても堪らないセミドキュメンタリーな内容といい、何もかもが好みな光景だった。