ogier

ザ・ロイヤル・テネンバウムズのogierのレビュー・感想・評価

4.1
やはりウェスの作品も初期が好み。
最近の作り込まれた完璧の或いは確立された芸風は圧倒的で何も言えないのだが初期衝動のエネルギーや磨かれすぎる前の原石の美しさは初期作品にこそ宿っている。
例えばこのなんとも言えない寂しさや空虚を感じることのできるこの作品は彼のキャリアの中でも最も重要な一作なのは言うまでもない。
自分の中に閉じこもった青年の決意と自殺。
薬物から抜け出せなくなった寂しがり屋の芸術家。
虚無を埋めるべく人間関係も空間も切り捨てては変える天才だった少女。
本当は一番愛している人にこそ優しくなれない息子の苦しみ。
縁を切られた父親と、その妻と、その愛人と、或いはその召使いと。
この短時間で物語の終わりには全てのキャラクターを心から愛せる様に作り上げたこの作品は21世紀の映画史に残る傑作。
自殺したエリオットスミスの旋律が流れ始めた時、或いは明日と言っていたはずの決断を直ちに犯した時、私はこの映画に恋をした。
やめられないタバコも隠していたい秘密もルビー色の火曜日も彼自身の心の傷だから。
この圧倒的な刹那をコメディに仕上げたウェスアンダーソンには感服です。
ogier

ogier