松井の天井直撃ホームラン

人間の條件 完結篇の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

人間の條件 完結篇(1961年製作の映画)
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☆☆☆★★★

“生き残る為”に敵兵とは言え、人を虫けらの様に殺してしまった《梶上等兵》の苦悩は続く。
戦争事態はもう既に終わってはいるが、“最前線での戦闘”はまだまだ終わってはいない。

第五部では、指揮官となった梶のもとで出会いと別れが繰り返しあり、時には人が虫けらの様に死んで行く。
梶がリーダーとなりゲリラ戦となるが、彼が指揮する事によって、他人に命令する事態になる。その事で映画的な面白味が多少薄くなって来る。

明らかに“上手く立ち回った者が得をする事態”に於いて、彼の生真面目な行動は果たして正解か否か?
その答えは第六部まで待たなければならない。

やがて強盗等の行為が発覚し、統制が困難な状況に及び、「1人々々が自分で考えて行動をするのが吉!」と考えるのだが、この第六部になると高峰秀子が登場して、俄然面白くなって来る。

男と女は常に一対となって行動を共にしなければ生きては行けない…。

気丈に振る舞いながらも女としての弱さを垣間見せる高峰秀子は絶品です。

そして舞台は遂に“あの地へ”

梶の直属の部下となる川津祐介との師弟関係を縦軸にして、“人間らしさ”を追求して来た作品は、金子信雄の非道な悪役っぷりへの怒りから意外な局面を迎え、クライマックスへと至る。

凡そ10時間に迫ろうかとゆう超大作の本編を観終えた今、最終的な結末は本来作品が当初打ち出していたテーマからは大きく逸脱してしまったかの様な印象を持つ。
圧巻的な仲代達矢の演技力に、全六作全てを担当した撮影監督宮島義勇の力強い映像は圧倒的な締め括りです。
然るに、長時間に渡り作品と向き合って来た人には非情な結末が牙を剥く。

これがもしもハリウッド作品だったなら…。

しかし、この事実こそが現実なのだろう。

「現実を直視しろ!」

そんな小林正樹監督の“檄”が聞こえて来そうな、入魂の作品でした。

(2009年1月21日 新・文芸坐)