安堵霊タラコフスキー

四川のうたの安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

四川のうた(2008年製作の映画)
4.8
まるでショアーを皮肉ったかのような半ドキュメンタリー作品。

過去を語る人物を撮ったとしても、そこにあるのは真実や歴史の断片ではなく、単に個人の記憶とそれを頼りに話す人間だけだ。

実際の労働者にテーマとなる工場や関係者のエピソードを話す役者を混ぜたことで、インタビュー形式のドキュメンタリーへの皮肉や虚構と現実乃至は自然と演出の境を探る実験性のようなものが見出せて、そのさながらキアロスタミ映画的試みは実に興味深かった。

一方で古びた工場やそこで働く少数の人々の様子には、実際そこに存在するものの強度みたいなのが感じられたけれども、そこでも結局大なり小なり演出が施されているだろうから一層自然と演出の違いについて考えさせられた。

主題となるものに対する敬意を保持しつつも映画についての哲学的行為にも励むこのような作品には、映画に対する真摯な態度が垣間見えるから好意的見方をせずにはいられなくなるが、こんな作品に取り組んだジャ・ジャンクーは真の映画人の一人と言えるだろう。