ブルームーン男爵

四川のうたのブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

四川のうた(2008年製作の映画)
3.7
忘却と追憶を描く天才 映画監督ジャジャンクーの作品。中国国営企業の閉鎖により、バラバラになる工員たち。彼らにインタビューした内容を再構築し、俳優があたかも自分のことのように話すドキュメンタリータッチの作品。その時代に流行っていた歌を流す演出がとても良い。

監督は「長江哀歌」でダムにより村が沈んだ人を描く、故郷喪失をテーマとしたが、今回は国営工場の閉鎖。監督の視点は常に社会の潮流に流されて行く市井の人々に寄り添っている。

本作はインタビュー内容を再構築しているからフィクションともいえる。しかし、話す内容は事実であり、その迫真性は損なわれない。仮に完全なドキュメンタリーだとしても、編集において作り手の意図が入り込む。現実をありのまま映すのは難しい。映画監督や小説家は、虚構で真実を語る。俳優が語る独白は変化する時代や社会に翻弄された個人の記憶や思いとして、何ら色褪せるところはない。ドキュメンタリーのあり方も考えさせる実験的な作品。