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翼に賭ける命のくりふのレビュー・感想・評価

翼に賭ける命(1957年製作の映画)
4.5
【錆びた天使たち】

今回はDVDでしたが、シネスコだし一度、大スクリーンでみてみたい作品。予算面からモノクロになったそうですが、かえって効いていますね。どこかノワールの匂いがあるから。

しかし本作、ノワール特有、ファム・ファタールに狂わされる男の末路を描くようにみえたものの…実はまるで違うところが妙味でした。

時代は大恐慌。塔の周りをギリで飛び廻る飛行競技に生きる男ロジャーとその妻子、エンジニアの4人チーム。廃れつつある「曲芸」で先細りな生き方だが、男は空に「逃げる」ことしかできず、他のメンバーも従うしかない。

そんな彼らに惹かれ、取材を始める新聞記者。しかし彼らの秘密を知ることになって…。

まずは眼のお楽しみ。妻ラヴァーンを演じるドロシー・マローン、そのしなやかボインな肢体にでへへです(笑)。

彼女も飛行機の上からパラシュート・ジャンプをするんですが、これがわざわざスカート姿。冒頭で男性観客を射抜く名艶美ですが、脚本家が企画を通り易くするため入れたそうです。ザッカーマン、グッジョブ!

が、ちゃんと物語内でも、そんなラヴァーンに対する男どもの欲情視線を入れるところがサーク監督のバランス感覚、いぢわるです。

パラシュート・ジャンプや飛行競技のスペクタクルで高揚する一方、本作実際は、動より静のシーンがよいと思います。皆、自分が背負った迷いをぐっとこらえる人物だから。ここもモノクロが効く部分です。

象徴的なのは、隣の部屋のお祭り騒ぎと対比される、メンバーたちのとつとつ語り。寂しさ倍増、でも各人物に自然と寄り添いたくなります。

『風と共に散る』とほぼ同じキャストですね。ロジャーを演じるロバート・スタックはこちらでは寡黙で、なかなか本音を見せない。しかし、映画のトーンとして彼ははじめから、空からは降りられない、と決まっているように見えます。

そしてロジャーとラヴァーンには、愛で結ばれたというより、互いの夢…実は妄執を、相手に求めて勘違いしたまま続いてしまった…というような倒錯をおぼえます。

そんな心のすれ違いが、抑制されたモノクロの画面にじわ、と染みてくるところが、本作いちばんの魅力ではないかと思いました。

そんな彼らを外から見つめる、新聞記者ロック・ハドソンの崩れた感じがとてもいい。サーク作品での彼はよけいなことをせず、受けに徹した方がいい面が引き出される気がします。本作での彼は別人か、と思うほどでした。

「錆びた天使たち」に、新聞記者バークはけっきょく介入できないんですね。できたのは堕ちた天使のお見送りのみ。そこが冷静でいいです。

フォークナーの原作は読んでいませんが、けっこう変えているようですね。しかし台詞はところどころ、硬い気がしました。新聞記者の終盤一気語りも原作の影響なのでしょうか、もっと台詞を絞れないものか…とちょい冷めました。

それにしても、ロジャーの子供が、人生最悪の事態なのに「旋回する飛行機」から出られない…というのはとんでもないアイロニーで、強烈に尾を引きましたね。

<2014.5.15記>
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