このレビューはネタバレを含みます
若い頃から孤独に生きてきた男が中年を迎えて15歳年下の女性に結婚を申し込む。幸せな時間がしばらく続くが洋服を美しく着こなす彼女は買い物依存症だった。それが間接的な原因となり命を落とす。村上春樹原作、ナレーション西島秀俊、イッセー尾形主演。独特なカメラワークも見応えがある。
中年男が妻を失った喪失感とどのように向き合うのか。同じく村上春樹原作『ドライブ・マイ・カー』と通じるところがある。決定的な違いは宮沢りえ演じる”美しい年下の妻”の存在だろう。主人公は彼女と結婚することで一旦は幸せな暮らしを手に入れたようにも見える。しかしその幸福は長くは続かない。「いつか妻が自分のもとを去るのではないか？」という恐れを抱えていかなければならない。既婚／未婚に関わらず中年男性ならきっと感情移入してしまうに違いない。観ていて身につまされる思いだった。
主人公が妻を失った喪失感を埋め合わせるために取った行動には賛否あるだろう。個人的には否定的に捉えざるを得ない。宮沢りえの一人二役でギリギリ観ていられるバランスを保っていると思う。後半の描写は女性を着せかえ人形にしているとも受け止められかねない。
とはいえ中年男性の抱える孤独とつかの間の幸福をミニマルなリズムで描いた本作は控えめに言っても傑作だと思った。
