くりふ

大都会/ビッグ・シティのくりふのレビュー・感想・評価

大都会/ビッグ・シティ(1963年製作の映画)
4.0
【セールスレディはサリーを靡かせ】

特集上映「シーズン・オブ・レイ」にて。

1963年作ですが、1953年のインドが舞台の、労働者お悩み物語。大卒銀行員でも生活厳しく、奥さん仕事に出たいが旧世代の父親は猛反対。そこに勤め先の銀行で大事件が…。

お話は通俗的ですが、人物の心の綾をじつに丁寧に掬い取り、いちいち、見応えありました。人物それぞれ魅力的ですが、引っ張るのは奥さん役、マドビ・ムカージーのまっすぐな健気さですね。

しかし、彼女の頑張りで暮らしは豊かになるのに、家族の心は曇ってゆくという皮肉な展開。タイトルに反し、狭き我が家での切実、しかし豊かなドラマが続く。これが終盤、やはりタイトルを受けた台詞に効いてきます。

描かれる当時の風俗がまた興味深い。50年代、欧米化された都市部では社会に出る女性もおり、訪問販売するセールスレディもいるわけです。サリー姿で資料抱えて外回りする姿が新鮮でした。初めてのピンポン、でえらく緊張したりとか。

当時のインド女性は背中の透けブラを気にしない、ということもわかり大変勉強になります(むふ)。

主人公の営業チームに独りだけ英国人女性がいて、彼女の行く末が…というところも時代を反映しているのでしょうね。かつて植民地であった複雑な想いが、彼女の扱いにちょっと、出ている気がします。

数か所、心情を台詞で説明する蛇足はありました。が、緊張すると妻の手にある変化が起こるのを初めて知る夫…なんていう繊細な描写が次々に出てきて、最後まで巧さが途切れませんね。

市電のパンタグラフから散る火花で始まり、そこからビッグに引いた画で閉じる物語。その間モノクロなのに、ずっと豊かな彩りが満ちておりました。

<2015.10.22記>
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