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ヤンヤン 夏の想い出のmnsのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
5.0
これまた原題に思いを馳せてしまう映画。我々の人生はやり直しが効かないし、そもそもやり直す必要もない、単なる「1」としてあるだけのものだ。ただそこに映画との邂逅が「2」を与えることができる。自分の人生に起きた/起きなかった、かもしれない出来事や行動が映画の中には必ずある。だから「映画は人生を3倍にする」のだ。こんな映画讃歌的なフレーズ(良すぎ)が繰り出される一方で「1」を背負うことで充分だとも明言される。数多の「もしも」を提示できる映画で、観客の人生の範疇を超えたところに存在する(かもしれない)生を想像させながらも、結局のところ個々が今背負う人生で精一杯でありそれで充分なのだと、決して美化されない悲喜交々の日常を生きた登場人物のセリフを通して伝えることは、エドワード・ヤンの控えめにも一人一人の「1」を肯定する身振りのように私は感じてめちゃくちゃグッときてしまったのだ。

邦題で目立つヤンヤンだが、人生の辛酸とはまだ無縁の彼には独特の存在感がある。そしてまたその捉え方が良い。小津、トリュフォー、シアマを観たときに感じた「子の撮り方への好ましさ」みたいなものが今作にもあった。あとは映画全体に散りばめられたあまりに映画的な表現(雷鳴・決定的な瞬間は見せない・多重フレーム…)あとから効いてくる自己言及性のあるセリフ等、強度を持って印象に残った瞬間、書き残しておきたいことが多すぎて困る。良い映画だったな。
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