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ヤンヤン 夏の想い出のmikiのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
5.0
まず、時間の長さでいうならば、全体としてヤンヤンが出てくる時間はそう長くない。でもヤンヤンは、複雑な物事が実は複雑に見えるだけなのだと、要所要所で気づかせてくれる。

最初に感じたのは、台北ストーリーやクーリンチェ少年殺人事件にある、まとわりつくような鬱々とした暗さがないということ。明るいというわけでは決してないけれど、どこか一筋、陽が差しているような雰囲気のある作品だった。夏だからでしょうか?しかし、他の作品と相変わらず、ところどころで「死の影」を感じる要素がちりばめられていた。

エドワード・ヤンの映像はいつも日常の美しさに気づかせてくれる。日本人が彼の映像を見て、エキゾチズムのようなものを感じたりするのはごく当たり前のことだけれど、台湾や中国といった自国の日常を、こんなに瑞々しくたるみの無い視点で見つめることができるのはすごい。
しかも、公開当時から美しいと思われていたものが、月日が経った今なお過去のものにならず、逆に時間を経たからこそ別の美しさが加わっているのだと思うと、そういう普遍性を作り出すことができることに感激する。

「半分だけの真実ってあるの?」という言葉、自分では決して見えない「後ろ姿」だけを撮り続けた写真。ヤンヤンのまっすぐな目を忘れることはないだろうと思いました。
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