一瞬にして彼女は心を奪われた。
学校での勉強、家族のこと、友達のこと…
何にも関心を示さなかった
13歳の少女シャルロットの感性を強く揺さぶったのは、とある少女の奏でるピアノの旋律だった。
彼女の名はクララといった。
シャルロットと同い年にして
天才ピアニストとして
世間に名を馳せていた。
既に大人の世界に揉まれているとは言えども
その屈託のないいじらしい笑顔だけは
年齢相応で男女問わず愛おしく感じさせるであろう。
まるで違う世界に住む彼女は
当然酷く輝いて目立って見えたから
シャルロットは自身を見失うほどに
彼女から手を強く引かれる感覚に陥り、
混乱するのだった。
羨望?恋?愛?嫉妬?
シャルロットのクララに対する
収まらない興奮の正体は
そうした端的な言葉たちで
容易に飾れるものではなかったように感じる。
「自分が自由になりたかっただけなの。」
危険を顧みない強い好奇心に反して
10代という時期はあまりに無力だ。
彼女らの世界を窮屈にさせる
そのアンバランスさは
子供時代の大半の苦しさの原因であるとはいえ、
歳を重ねるにつれてほぼ出逢えなくなるであろう
貴重な経験としてポジティブに位置づけることも可能ではなかろうか。