うえびん

オアシスのうえびんのレビュー・感想・評価

オアシス(2002年製作の映画)
4.7
二度目の鑑賞

正常と異常、普通と特殊、健常と障害。人は、人のふるまいだけではなく、在り方にまでレッテルを貼り区別する。区別は力の不均衡を生み、強い者と弱い者の間に差別が生まれる。

ジョンドゥは、知的にボーダーであるが故に、異常な言動や特殊なふるまいに負のレッテルを貼られ差別を受けている。コンジュは、身体障害による容姿や意志疎通の難しさ故に、差別を受けている。二人は、周囲の人から差別を受け我慢し続けてきた。だから、互いを理解しようと、声なき声に全身で耳を傾ける。その時、二人がいる空間や時間が日常のそれとは違うように感じられるのが不思議だった。

二人の恋路を邪魔する人たちは、自らに正常・普通・健常という正のレッテルをまとっている(と思いこんでいる)。ジョンドゥとコンジュ、彼・彼女の在り方や言動を嘲ったり否定したり、二人の関係を引き離そうとすればするほど、その人たちの偽善や欺瞞が浮かび上がって来るのが可笑しかった。

今朝新聞で読んだ作家カズオ・イシグロ氏の言葉が浮かんだ。
「いまの世界では、科学的真実と感情的真実という二つの真実が対立している。私は感情的な真実の追求も絶対に必要だと信じ、『なぜ、優秀な科学者と並んであなたがノーベル賞を取れたのか』と聞かれたら、語り部代表として説明してきた。感情を交わし、理解し合い、判断することで我々の社会は進むのだと」

イ・チャンドン監督の作品にも、感情的な真実が追求されている。本作に描かれるジュンドゥとコンジュ、二人にとっての感情的な真実はひたすら美しかった。「ペパーミント・キャンディー」「シークレット・サンシャイン」もその視点をもって、もう一度観ようと思う。
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