たけうち

オアシスのたけうちのネタバレレビュー・内容・結末

オアシス(2002年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

刑務所から出所したばかりの青年(とはもう呼びにくい年頃)のジョンドゥが、やらかした交通事故で死亡させた相手の家族に挨拶に出かけ、そこで出会った被害者の娘のコンジュと出会う
そして2人は吸い寄せられるように仲を深め、愛し合うようになるが、社会的に居場所のない2人の関係は誰からも理解されない
でも2人は引き離されても隔てられても、ひたすらにお互いを想い続ける…

この恋人たちは男性が前科者、おそらく発達障がいと軽度の知的障がいで、女性は脳性麻痺で身体が不自由
そしてどちらも家族から冷たくあしらわれている上に、形は違う搾取を受けている
でも、ふたりはひたすらに、互いを愛して求めていて、冷たい家族を憎んだり自分の状況を嘆いたりはしない
ふたりでいられる事が幸せ、ただそれだけを想っていた
ポスターにもあった、キスシーンがあまりに切なくて辛い、

(しかし2人の出会いから間もなくの、ジョンドゥのコンジュへの行為はただの性暴力、同意のない性行為です 怒りに震えながら観た ヨンジュ自身が奴を許したからいいものの、もっと悔い改めて恥じろと言いたい)
(でも、その後にお互いの理解を深めた上で、ヨンジュの方から求めてセックスをするシーンは、ほんとに素晴らしい
ヨンジュは表情や反応を汲み取るのが、どうしても難しい子だけど、はじめてのセックスでの身体的な苦痛と悦びとを一心に感じて震えてるところ、それに「辛いのか、止めようか?」って聞けるようになってるジョンドゥが優しくて泣けてくるし、震えて必死で、止めないで、止めないで! って動作で訴えるヨンジュが健気でかわいい、ほんとにかわいかった)

しかしふたりのセックスは、端から見たら
“障害者の女性を強姦した変態の男”としか見えない
警察に連れていかれ、加害者と被害者にされてしまったふたりが、心ない取り調べを受けたりする中で、ヨンジュは「私が自分でこの人に抱いて欲しいって言ったんだ!」って訴えるけど、誰もその気持ちを汲み取れない
きっとここには、障害者に性欲なんてあるはずがないという無意識の差別があるし、そもそもヨンジュは身体が不自由なだけで、普通の女性なのだということも、冒頭からずっと、家族にさえも理解されていなかった
普通の女性として(性欲もありつつ)接したのはジョンドゥだけだったのに、そのことも誰にも理解されない
ジョンドゥも他者に理解される、説明するって感覚があんまりないから、溝が深まるばかりで歯がゆくてならない
でも、ジョンドゥが「ヨンジュが自分でして欲しいって言った」って言わなかったのはえらい

真実を伝えるためには言うべきだけど、ふたりで頑張って伝えることを試みて欲しいけど、それに聞く耳を持つ人はあそこにはいない
ふたりはただ、ふたりでいたくて他には誰もいらないと思っているのかも
他の人に理解されることなんて、きっとふたりにはどうでもいいことなんだろう
獄中からのヨンジュにあてたジョンドゥの手紙も、しんどさとか辛さとかは全く書かれてなくて、大切な“姫”に手紙を綴れるよろこびに溢れていた
だから一刻も早く、ふたりがあのポスターのように、またキスができるように、願わずにいられない
たけうち

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