幸せのさちこ

百万円と苦虫女の幸せのさちこのネタバレレビュー・内容・結末

百万円と苦虫女(2008年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

私はこの終わり方が好きだった。
一緒に観た相手は、
「最後に2人が会えずに終わったのは残念だった」
と言ったけれど。

私は、あの2人が会えなくて
良かったと思った。
これはラブストーリーじゃなく、
鈴子のロードムービーだから。


海の家ではかき氷の才能があって、
地元の男の子にも気に掛けられて、
山奥の村では桃狩の才能があって、
優しいお母さんと息子に迎えられて。

鈴子が訪れた海も、山も、
側から見たら鈴子にとって
居心地の良さそうな環境だった。

パーティーや桃娘は、
鈴子からしたら『面倒なこと』だったけれど
そこにも決して悪意はなかった。

そんな100万円生活の中で、
弟宛に前向きな言葉を認めた手紙を出せなかったのは
きっとその生活に対するもやもやの方が大きかったから。

手紙と対比で描かれる弟のいじめ。
前向きに進む姉と、いじめから抜け出せない弟。

そう見えていたけれど、実は逆だった。

面倒なことから逃げ続ける姉と、
いじめられても逃げずに耐える弟。

弟からの手紙を読んで、
面倒なことから逃げないと決めた鈴子。
次の街は『100万円が貯まるまでの仮住まい』ではなく、
自分の居場所にしようと決意をした。

だから、あのアパートに
とどまってはいけない
中島さんとの別れなんて、
ちっとも悲しいことじゃない

相手が良い人であったとしても、
自分が好きだと思う相手だとしても、
他人との関わりは常に面倒なことも連れてくる

それでも、
いつまでも逃げてはいられない
愛想笑いで誤魔化さずに、本心を隠さずに
言葉にして向き合っていかなければならない

鈴子は中島くんのことを
『私じゃなくて私のお金が好き』だと思ったまま
中島くんとお別れしてしまったけれど、
もし次の街で中島くんのような人と出会ったら
逃げることなく向き合って、
きっと本当の気持ちを知ることができる

初夏の夜に相応しい、木漏れ日のような映画