裏社会と表社会の間を自由に行き交い、大規模な犯罪を繰り返すマブセのカリスマ的な犯罪者っぷりと鮮やかで完璧な犯罪の手口をビビッドに描くラング監督の演出に魅了され最後まで鑑賞してしまった。でも個人的には随所に登場する時計が象徴するように完璧な計算と計画と感情を廃した行動力で悪事を成功させてきたマブセが、人妻のヒロインに惚れて彼女を自分のものにしようとする後半になるとどんどんカリスマという虚飾が剥がれていき普通の犯罪者となり魅力を失い、映画も失速気味になっていったように感じられる。
今回四時間半バージョンで鑑賞したけれど刺激が古い分やはり長さを感じてしんどいな、監督のやりたい意図は凄いわかるけど。
冒頭での列車、部屋にいるマブセ、外にいる子分のクロスカッティングが一つの事件に集約していく演出がスピードといいタイミングといい完璧。サスペンスと妖しい美しさに満ちた降霊術ショーでのやりとりも印象的。
あと白黒映像のためか、色んな人に変装できるマブセの設定に不自然さがなく本当に別人になりきっているような錯覚に陥る。カラーだったらメイクが浮いて違和感しか感じないんだろうな。
退廃的な社交界に飽きたヒロインや、マブセの話術に騙されて盲目的な状態になり暴走する一般市民の様子から当時の社会的不安を帯びていたドイツの情勢を感じさせる。
ラストのマブセグループと警察の銃撃戦はいかにもサイレント映画らしいけど、ただ単に勧善懲悪にせず含みをもたせたエンディングは好き。