恋愛を否定し、人工授精を奨励するインテリ博士と、博士に賛同して実験台になろうとする農家の娘が出会ったら何故だか恋に落ちてしまう。博士の本来の婚約者はドイツ貴族のガールスカウトで、軍隊のような振る舞いは、優生思想を謳ったナチスを意識しているのだろう。
ロジックに縛られた動きのない白黒ニュースから、好き勝手に喋るカラーの現実に入るオープニング。歌と運動が硬直したインテリの世界をぶっ壊し、自然の秩序に導いていく。
地元の若者と、博士たちインテリが近くでピクニックをしていると、ヤギを連れた男が笛を吹き、風が吹き荒れる。人は吹っ飛び、入り乱れ、スカートは捲れ、無茶苦茶の中で二人が出会う。「ゲームの規則」で階級制度や様々な記号が意味を失う展開と同じ。
境界が崩れる前には流れる水や揺れる草木、曲がった幹なんかの美しいショットが入る(タイトルが同じマネの絵と関係?)。ただ、崩壊が貴族の屋敷内で起こったゲームの規則の方が破茶滅茶っぷりは視覚的にわかりやすく、今作は自然主義的というか南仏の陽光の下でお昼寝、みたいな映像になるので、私としては前者の方が好みだった。
とはいえ今作の博士の吹っ切れ具合は痛快。娘の水浴びを見て以降、ほぼブレずに走り切る。虚飾に戻るゲームの規則とは突き抜け方が異なり、監督も晩年にやりたい放題やった、という感じだろうか。あまりにシンプルかつ大胆な内容なので、こういう映画しか作られなくなったら困るが、こういう映画は絶対に必要だ。