KICHI

クイルズのKICHIのレビュー・感想・評価

クイルズ(2000年製作の映画)
3.3
2016/07/29
 サディズムの由来であるマルキドサドの晩年(シャラントン精神病院に収容されていた時期)を描く。タイトルのQuills(クイルズ)とは羽ペンという意味らしいが、喉から手が出るほど羽ペンを渇望したサド侯爵の執筆することへの執着心を表現するのに相応しいタイトルだと思う。
 書くことこそが生きることであったらしいサド侯爵を見ていると『紅の豚』の「飛ばねぇ豚はただの豚だ」という台詞を思い出す。彼の執筆への情熱は狂気すら感じる。
 欲望に忠実で享楽的なサド侯爵と彼の作品に感化された人々に対して、理性的で禁欲的な神父が随分と滑稽にみえた。自分にも思い当たる節があるが、神父のような人物は禁欲的であることで優越感を得ているはずである。しかし、いざサド侯爵のような本能の赴くままに生き生きと生きる人間を前にすると激しいジェラシーを感じて正しくて清いはずの自分が段々馬鹿らしくなってくる。所謂真面目で理性的な人間にとっては自分の在り方を問われるような作品だ。この数時間でドロドロしたサドワールドに呑み込まれて妙な気分になった。
 「逆境にあってこそ芸術は花開く!」という台詞は印象的だった。オープニングもインパクトがあって良かったな。
 神父役のホアキンフェニックスの出演作は『グラディエーター』や『her/世界でひとつの彼女』くらいしか見たことがないが、言われないと同一人物だとわからない程に別人を演じている。
 
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