三樹夫

犬神家の一族の三樹夫のレビュー・感想・評価

犬神家の一族(1976年製作の映画)
4.5
この映画は犬神家の外観と廊下のカットから始まる。つまり家の呪いの作品ということを示している。この映画の黒幕は犬神佐兵衛だ。極悪クソジジイが、さあデスゲームの始まりですと言わんばかりにとんでもない遺言書を残して殺戮の幕が切って落とされる。イカれた人間関係が次々明かされていき、家の凄まじいドロドロ具合がずっと続く。また戦争の影響も多分にある。戦争がなければこんな酷いことにはならなかっただろう。
この映画の構造はミステリーの背景としてドロドロした家や戦争があるのではなく関係は反転しており、ドロドロした家や戦争の背景としてミステリーがある。犯人捜しのミステリーはあくまで副次的なものだ。ミステリーをメインに映画にしても画的なダイナミックさに欠け映画として物足りなくなるため、映画においてはミステリーはあくまで背景となるのは多々ある。コナンの映画がそうだし、同時代に作られた松竹版金田一の『八つ墓村』も「祟りじゃ~」がその通りだったというメインはオカルトホラーであった。

横溝正史は田舎のド陰惨な風習を叩きつけて下世話な好奇心を刺激し、さらにフリークスをぶち込んでくる奇形趣味と、見世物小屋精神満載で映像化した時にホラーにでも何にでもできるため画的な見栄えが良い。
殺人に関する最大のトリックについては、この人が犯人?いやでもこういう理由で無理じゃないかみたいな誰が犯人かという推理シーンにこの映画は本腰を入れていないため、フリがあまり効いておらずサプライズ度はあっさりしたものになっている。この点をとってみてもこの映画が犯人探しがメインでないことが分かる。またミステリーというかミステリ(推理)ものにおいて、仮面などで顔を隠している奴にはあるあるというかある定型がある。
市川崑の金田一は探偵役というより解説者かつ見届け人でしかないため、はっきり言って何の役にも立たない。次作では途中でいなくなるというありさまだ。探偵役不在というのでも犯人捜しをメインで映画を作っていないことが分かる。

この映画では市川崑がキレキレで、ジャンプカットやストップモーション、回想がハイコントラストなモノクロなど結構アバンギャルドなことをやっている。台詞が言い終わるかぐらいにカットが切り替わり別人の台詞が始まるというように会話がポンポン進みテンポが良い。台詞の応酬というより言い合いの細かい編集など、編集に力が入っている。細かいカットの切り替わりで構成するにあたっては、同じシーンを何回も撮るという撮影で作られている。
編集のテンポだけではなく、明らかに役者自身も早口気味なシーンがあるが、安定感のある役者で揃えてあるためしっかり発音が聞き取れる。家の呪いの映画というのでお化け屋敷みたいになっており、女優が髪が乱れて青白い顔した狂女メイクしているのが印象に残る。さすがの実力か、岸田今日子は特に何もしていないのになんか怖い。
おどろおどろしい映画であるが、坂口良子、大滝秀治、三木のり平の清涼剤を定期的に投入することで緩急の緩としている。特に坂口良子がもの凄く可愛くて、看板娘とか下町の太陽みたいな庶民的な可愛い女の子役をしており、もの凄く可愛いと二回言っておきたい。
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