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ソナチネの都部のレビュー・感想・評価

ソナチネ(1993年製作の映画)
5.0
北野映画のひとつの到達点とも言える本作は、日本の極道映画の潮流から逸脱したシュールでオフビートな雰囲気を纏いながら、生と死の境界線が曖昧になってしまった男達のひと時の享楽と呆気ない幕切れを同居させることで幻想的で耽美な物語としての完成度を練り上げている。

『脈略のない乾いた死』というのが本作には一貫して存在しており、決してドラマチックとは言い難い人生の幕切れの連続こそが、冷淡とすら思える主人公:村川の葛藤をより克明な物としていく。砂浜での児戯のようなロシアンルーレットなどがそれを象徴しており、生きることに疲弊してしまった男がそれでも生を見出す為に死を傍に置き続ける難儀さには彼の死生観の卑近さそして退廃的な色気を感じる。

北野ブルーと呼ばれる色彩美も惜しみなく端々で演出されており、緩やかに死を待つ大人達の修学旅行に変調を加えることとなる婦女暴行のワンシーンは気味が悪いほどに綺麗で、北野武その人の精悍とした顔付きを際立たせるそれであった。
そうした現実離れした綺麗さが呆気ない死のコントラストとして用いられるのは通底していて、沖縄の風景群と砂浜での遊びがプリミティブなものとして存在しているからこそ、ある種大人の世界が空虚に映る。

対比的な構図を丹寧に積み重ねる周到さと物語のウェイトに忠実な美的な画作りの徹底ぶりは物語を芸術の域に押し上げ、引き算の美学を覚える最低限の情報の交通整理による先鋭化が作家性を優美に主張する。久石譲の劇伴も相まって、非常に完成度の高い一本だ。
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