あしからず

ノン、あるいは支配の空しい栄光のあしからずのレビュー・感想・評価

4.0
武力によって他国を征服する空しさをポルトガルの歴史と現代をシームレスにかけ合わせて語る手法で、歴史映画に慣れてない自分にも入り込みやすかった。
過去の描写は壮大ながら演劇的で戦闘シーンでさえどこか牧歌的なのに対し、現代の兵士の銃撃戦と負傷は酷く生々しくて寡黙。自国へのオリヴェイラの強い感情が伝わってくる。
また、小津映画のように人物を真正面から捉えるカメラは私たちと直接対話しているよう。
中隊長が語るように、征服によって残るものはその地に与えたものだけで、それは今日の文明の基礎である。対して強奪は何も生み出さない。それは多分ノンであり、ノンはいくら砂糖をかけても苦い。

新大陸を開拓したヴァスコ・ダ・ガマがキューピッドやニンフに祝福されるギリシャ神話的なパートが象徴的だった。様々な人種のキューピッドたち。
ラストに医師がカルテに書き込む死亡日は1974年4月25日。それはサラザール独立体制が崩壊し、植民地戦争に終止符が打たれたカーネーション革命の歴史的な日付だそう。
セバスチャン王と兵士が流した血はポルトガルそのものの血である。冒頭の長い時間を保有した木と人間の儚さの対比が際立っていた。
あしからず

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