千利休

アイズ ワイド シャットの千利休のレビュー・感想・評価

アイズ ワイド シャット(1999年製作の映画)
4.9
〈ALL YOU NEED IS FUCKは見せかけ?〉

キューブリックの遺作である本作は、夫婦の本質に迫ったものである。度々"人間"を描いてきた彼にとって、このような形で夫婦を描いたのは順当であったと言えるだろう。

ところで、巷での本作の研究は、「フロイトの"夢"で大概説明できる。でも、その"夢"の範囲は分かり得ない。」ということしか教えてくれない。さらには元々秘密結社の実態を暴くことが目的であった本作は、闇の事情でキューブリック暗殺死後に内容が大きく改変されてしまったなんて説もある。それが本当だとは思わないけれども、トム・クルーズとニコール・キッドマンのインタビューからは、まぁ確かに不穏な空気を感じる。

そんな事情もあり、本作が完璧な状態で世に出たとは思わない。しかし、自分には『仮面/ペルソナ』の系譜として、かつ夫婦の本質を描いている作品というだけでも本作には素晴らしい価値があると思うし、恋愛にすら皮肉を忘れない表現者の創作は、やはり美しく感じる。テーマが故に比較的猥雑なだけで、この"映画の神様"の輝かしいフィルモグラフィの中で本作は全く引けを取らない。

本作から『ファイト・クラブ』へ、キューブリックからフィンチャーへとバトンが渡された99年という年は一体なんだったのか。最後のシーンは本当にキューブリックの遺言だったのか。そんなことを考えれば考えるほど、本作の魅力の谷に落ちていく。下手な詮索はするなよと言われているのに。

さて、人には軽くは言い難いのだが、この美的感覚の自分との相性の良さは唯一無二であり、本作はオールタイムベスト級。数年後に再び鑑賞して、見え方が180°変わっていれば幸いだ。ちなみに"夢"の範囲だが、個人的には最後のオモチャ屋とその直前のシーン以外は全て"夢"であると思う。医者という肩書きも"夢"の中だけのものではないだろうか。そういう風に色々と当て推量できる映画はやはり最高なのだ。
千利休

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