Ren

チキンランのRenのレビュー・感想・評価

チキンラン(2000年製作の映画)
4.0
ニック・パークは大好きだけど不覚にも未見だった。これは傑作。アニメでしかできないど真ん中のエンタメは観る時代も年齢も選ばない。

養鶏場で一生卵を産まされ死んでいく真理に気付いた鶏たちの脱走劇。『大脱走』未見なので比較はできないけど、そういった先行作品の知識のある大人の観客も純粋な子どもも巻き込める楽しさがあった。『カッコーの巣の上で』や『ショーシャンクの空に』とも比較できそう。

途中、内輪の鶏ドラマが掘り下げられ続けると少し飽きかけるけど、そこで急に機械へ舞台をガラッと変化させるなどの工夫で飽きさせない。このシーン自体あんなにやらなくていいけど味変として効果的だし、『ウォレスとグルミット ~』シリーズで積み上げてきた外連味溢れるマシンアクションのエッセンスがあって嬉しかった。

搾取構造からの脱出の話だが、搾取の頂点にいる人間(悪役)というよりは構造そのもののほうが印象に残るように設計されている。搾取される者を洗脳/支配する者、をさらに支配する者という仕組みが常に強調されていて、上位者は実はそこまで悪役らしいムーブをしていない。罰は下るけど、倒した爽快感よりもその構造から脱した解放感を味わう。

もう一つ、集団のリーダーは女性で、男性キャラクターは自分中心で自衛のために虚栄を張ることばかりしていたのがかなり露骨。2000年当時としてはエンパワーメント的側面もあったのだろう。
女性中心のコミュニティで自分の隠したい過去を隠しながら態度ばかり大きくしていく有害さが強調されるロッキー(とファウラー)。トゥイーディも妻の尻に敷かれながら下位の者には圧をかける典型的な有害中間管理職男性だ。彼らの明暗は、自分の意思で行動し/他者に尽くせるか否かで分かれる。

終盤のスペクタクルが全部を置き去りにする辺りもアードマン。彼らは『ウォレスとグルミット 危機一髪!』や『~ 野菜畑で大ピンチ!』など、クレイアニメでの空中(縦方向)アクションに長けている。そんなことできるわけねえだろ、を平然とやってのけるのがアニメの快楽。

今作は『大脱走』以外にもかなり先行作品の影響を受けて作られていると邪推する。特にピクサー。
ロッキーの「空を飛ぶ」ことへの虚栄とファウラーの軍事的精神は『トイ・ストーリー』のバズを分裂させたようだし(自分が飛べないことを知っている/知らないの違いはある)、サーカスというモチーフや協力して巨大ガジェットを作り上げる過程は『バグズ・ライフ』っぽい。これらの点は7年後に作られた『レミーのおいしいレストラン』にも少し重なる(料理の才能は無いがネズミの協力を周囲に隠してスターダムを駆け上がるリングイニ)(レミー一族が総出で協力するキッチン風景)。
前述した中盤のマシンアクションでは『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』オマージュを2つほど見た。ローラーに巻き込まれそうになる件と、落ちる壁すれすれで帽子を拾うところ。

その他、
○ 鶏たちの顔をグルミットやプルプル(ショーン)寄りのキャラデザにすれば間口はもっと広がりそうなのに、ナチュラルにウォレス側のデザインを取り入れるセンス◎。
○ 鶏なのに羽でなく腕にしか見えないデザイン。見慣れるのに時間はかかるけど物語的に意味はある。どう考えてもこれでは「飛べない」。
○ インディオマージュ、製作総指揮にスピルバーグが入っているのでその関係もあるのか?と勘繰ってしまった。
Ren

Ren