「イライラするんだよ、君たち見てると」
1982年5月。大学4年の小杉、芹沢、裕子、真理子は、無線マニアの芹沢の提案で、湘南にミニFM局を開設する。DJを務める真理子は、間もなく留学のためロスに行ってしまうが、互いに想いを寄せる小杉とは気持ちを伝えられないでいる。そこへ広告代理店に勤める吉岡が現われ、真理子に急接近する。
流行の最先端を追う企画編集集団ホイチョイ・プロダクションの、第3回映画製作作品です。ヒロインは原田知世さんから中山美穂さんへバトンタッチですが、三上博史さんから引き継いだ織田裕二さんはそのまま連投です。前ニ作と合わせて、バブリー映画、ホイチョイ三部作と括られることが多い本作ですが、前二作とは少々趣きが異なります。前ニ作がまさにバブル期を舞台にして物語が繰り広げられたのに対し、本作では1991年11月の旧友・真理子の結婚式の帰りから回想する形で、1982年の夏を舞台にしています。
バブル真っ只中の前ニ作とは異なり、1985年9月のプラザ合意より前、つまりバブル期より前の時代を舞台に選んでいます。また経済学的には、1989年の金融政策転換と1990年の総量規制の実施により、1991年2月頃からバブル経済は崩壊したとされています。本作の立ち位置となる現在も、まだ好景気が続いていたとはいえバブル期の終焉を迎えた後になります。バブリー映画のホイチョイ三部作に数えられながら、実はバブル期を飛び越えた設定になります⁈
ホイチョイ三部作に共通して、主人公の男性は恋に不器用で、恋愛が下手です。前ニ作ではそんな彼を周りが盛り上げてハッピーエンドにしようとしますが、本作ではその煮え切らない態度が、周りをイラつかせています。恋の駆け引きなんて、まるで手に負えないみたいです。ハッピーエンドをあえて持ってこないのも心のゆとりのなくなったバブル終焉という時代でしょうか。
バブル前夜では、今と違い通信手段も限られ、携帯電話も普及していないし、SNSといった自己表現する術もありませんでした。それでも彼らは工夫して、当時の自分たちの青春を思いっきり楽しんでいました。携帯電話がなければ発煙筒をあげたり、皆んな日に焼けてまるで学園祭のノリですね。たしかに免許のいらないミニFMは自分の声をラジオに流せる自己表現手段の一つとして受け入れられていました。私も電子工作キットで作ったことがあります。自分の気持ちを相手に伝えたい。でも山一つ越えたら物理的に相手に気持ちが届かない。当時の若者たちは自分の気持ちを伝える手段が限られているからこそ、伝えようと必死になって色々工夫していたし、それでも伝えきれなかった気持ちは最後まで残ってしまったのでしょう。同じ織田裕二さんの名曲、「歌えなかったラヴ・ソング」も思い出しました⁈
モノクロて色褪せた現在が、当時を振り返って、少しずつ色づいていくラストシーンに、彼らの将来への希望がうかがえました。