「大切なのは君が照らされていて、君が照らしている、ということなんだよ」
「もがいたことのある人間じゃないと幸せはないと思うんです。もがいてもがいて恥かいて。いいじゃないですか」
「知ってますか、人は乾杯の数だけ幸せになれる。何かいいことがあったら乾杯して、何か残念なことがあっても乾杯して、一日の終わりを誰かと今日も乾杯と締めくくれたら、それは幸せだと」
北海道の静かな町で若い夫婦が営むパンカフェ「マーニー」には様々な悩みを抱えた人たちが訪れる。彼らをやさしく迎えるのは、夫婦が心を込めて作る温かなパンと手料理、そして一杯の珈琲だった。
大泉洋さんの「北海道美味しいものシリーズ」第一弾です⁈大泉洋さん、いつもならちょっとでもスキあらば小ネタ、ギャグをどんどん挟み込んできますが、この作品での役柄、水縞クンでは口数が少なくいつもと違った魅力を堪能することができます⁈共演している原田知世さんのおかげで、以前彼女がAGFブレンディのCMで演じていたような、透明感のある、それでいてほっとひと息つけるくつろぎのある彼女の雰囲気が映画全体を包み込んでいるかのようです。この似た者夫婦、水縞夫妻が、パンカフェ「マーニー」にお客様を優しく迎え入れます。
夏には、実らぬ恋に未練たらたらの女性・香織さん。秋には、家を出ていった母への思いから父親を避けるようになった少女・未久ちゃん。冬には、生きる希望を失った老夫婦・阪本さんとアヤさん。季節の移ろいとともにさまざまな悩みを抱えた人たちが、「マーニー」を訪れます。でも若い夫婦の水縞クンもりえさんも、意見を押しつけたり、決めつけたりすることなく、ただ言葉少なく聞いてあげます。二人が心を込めて作る温かなパンと手料理と淹れたての一杯の珈琲でもてなし、優しく相手が答えを自分で見つけ出すのをずっと待ってあげます。
この待ってあげる、というのがとても大変ですが、大切なことですよね。最近では、やれタイパがどうとか、やれ効率化がどうとかいって、日常生活でも多くのことで考える間も与えられないまま即断即決することを求められ、なかなか待ってはくれません。自分でもがいて答えを見つけ出すことの大切さを、そしてその先にある幸せを、「マーニー」の水縞夫妻も、そこに集まる仲間たちもみんなが教えてくれます。映画で何度も焼かれ、仲間みんなでちぎって食べるカンパーニュ。「しあわせのパン」って、ただ単に食べれば幸せになれるパンという意味ではなく、もがいた後の幸せを、見守ってくれたみんなで分かち合うことができるパンという意味なのかもしれません。「でもまぁ、他人じゃどうにもできないこともあるから、まぁそれは自分でやってねぇ」
季節が進んで春、「マーニー」はまた新しいお客さまを迎えます。ここで今までのナレーションが誰だったのかがわかる、秀逸な演出です。