たむランボー怒りの脱出

新ドイツ零年のたむランボー怒りの脱出のレビュー・感想・評価

新ドイツ零年(1991年製作の映画)
3.5
青い車を押す男とそれを追い越してドン・キホーテみたいに馬で突っ走っていく男を写したロングショットがあるが、そこで何となくそのカットをもう一度最初から見たくてビデオを巻き戻したときに戻しすぎて何カットか前からもう一度見ていると、ついさっき見たはずのカットをもう忘れていて、勝手に初めて見たような感覚になっていた。ゴダールの映画の忘却喚起力は凄いものがあると思う。ゴダールの映画って次に来るカットを予測してそれが的中することって絶対にないってくらい非予定調和な画面連鎖だから、予想を外され続けた脳は常に驚きまくっていて、だからその驚きに対処しきれないまま、記憶が定着するより前にどんどん映像をぶつけられていく。映画を見ることは脳が予測する画面と実際に提示された画面とのズレを埋めていって、ひとつの統一的な「見終わった映画」という記憶が出来上がることなのだと思うが、ゴダールの映画はあまりにも予測を裏切られ続けるためにそのメカニズムがうまく機能しなくて、だから記憶が定着しない。でも見ている最中のその現在は確かに「面白い!」と思い続けていた記憶はあるのだから不思議だ。