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華氏451のEyesworthのレビュー・感想・評価

華氏451(1966年製作の映画)
4.7
【人から知的好奇心は奪えない】

レイ・ブラッドベリの名作SFをヌーベルバーグの巨匠フランソワ・トリュフォーが1966年に映画化した作品。

〈あらすじ〉
主人公モンターグは禁止されている書物の捜索と焼却にあたる有能な消防士だったが、クラリスという女性と知り合った事から本について興味を持ち始める。やがて読書の虜となった彼の前には妻の裏切りと同僚の追跡が待っていた...。

〈所感〉
地味にフランソワ・トリュフォー監督作品初鑑賞だったが、ブラッドベリの原作は過去に読んでおり、取っ付きやすそうだったので鑑賞。完全に2人のネームバリューだけで手に取った映画だったが、原作の本よりも当たり前だがコンパクトな内容に縮約されており、とても筋書きが良くて、わかりやすい映画に仕上がっていると思う。少なくともこの映画から2年後に公開された『2001年宇宙の旅』のような難解さはなく、近未来的でありえる未来とそれに対する警鐘ををフラットに描けている。それに寄与したのはニコラス・ローグの流麗なカメラワークであり、冒頭からその技術に圧倒された。焚書という題材的に『ONEPIECE』のバスターコールで島ごと焼かれて滅んだニコ・ロビンの故郷のオハラの一族を思い出す。彼らは自らの生命を投げ打ってでも、長い時間をかけて集積された本という知識の価値を優先して生かすことにした。いかに国の権力によって人から本が奪われても、人から知識は奪えないし、その原動力となる知的好奇心は抑えつけられない。私も映画以上に本を愛する一人として一冊を丸暗記することは困難でも、いざという時に本棚という知の要塞だけは守り抜きたい所存だ。本棚は私の生きた足跡だから。これまで読んできた一万冊程の本が私の脳にはある。もちろんその全てをアカシックレコードなように記憶できているはずもないが、そのワンパートワンパートが私の思考・感情を作り上げていると思っている。妻リンダとクラリスを同じ女優が演じているのが斬新。テレビばかりで本など読まないリンダと本を読みまくっているクラリスの対比がまさにどちらもそうなり得た一人の人生を暗示しているようだ。私はどんなに後ろ指を刺されようが、ロートルと言われようが、常に本を読む人でありたい。ラストの本の森に迷い込んだモンターグのシーンは幻想的であり、現実的な逃避場であり、とても忘れられないものだった。
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