菩薩

おかえりの菩薩のレビュー・感想・評価

おかえり(1996年製作の映画)
4.6
小栗康平『死の棘』、諏訪敦彦『2/デュオ』&『M/OTHER』、そしてカサヴェテス『こわれゆく女』と同等の傑作。

男はいつも 待たせるだけで
女はいつも 待ちくたびれて…

と俺の脳内で松山千春がこだましていたが、これは「恋」では無く「愛」の映画。家庭という「虫籠」に閉じ込められた妻の孤独、苦悩、逃避、そして崩壊(この頃はまだ精神分裂病か)。20年以上の時を経ても未だ変わらぬこの国の現状、男性社会と言う籠に閉じ込められた女性はこれを観て何を思うのだろう、そんな思いを無視して良いものか(虫籠とかけて…ない)。ローアングルと長回しが臨場感と息苦しさを与え、寒色から暖色への変化が観るものに希望を与える、木枯らしは潮騒へと変わり、やっと夫は妻との約束を守る事に成功する。社会を、そして家庭を虫籠にしない為に、20年経った今でもこの作品が訴えかけるメッセージは強い。この息苦しさが現実の物になる前に、彼女達の呼吸を確保する必要がある。この映画はいつまでもそんな社会の監視役として、「大丈夫」に真の意味を取り戻す為に見回りを続けるであろう。「ただいま」は男性の為に用意された言葉では無いし、もちろん「おかえり」は女性の為に用意された言葉では無い、今日は妻が帰って来たら、ありったけの「おかえり」と共に強い抱擁を、なんて思った矢先「だから妻いないだろ!」ともう一人の俺が全力でツッコミを入れて来た、俺もちょっと…見回りと称して現実逃避して来ます…。

心は体より脆い、体の傷は一人で癒せても、心の傷が完治する事は無い、そんな事実に気づくのは、壊してからでは遅いのだ。
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